SE労働と健康研究会

リモートワークと健康、そしてコロナパニック、SE労働者の場合(YouTube)

コロナパニックで働き方が大きく変わりました。リモートワークと健康の課題についてSE労働と健康研究会のデータから考えてみました。

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2019年2月
働くもののいのちと健康を守る全国センター
「SE労働と健康研究会」

情報サービス産業の健全化にむけた提言 (案)

はじめに

働くもののいのちと健康を守る全国センターでは、SE労働者にメンタルヘルス疾患などの健康被害や過労死が多発している実態を重視し、その改善をめざして2013年5月、現役・OBのSE労働者、労働相談員、労働組合などの協力を得て「SE労働と健康研究会」を立ち上げ、SE労働者の実態把握、過労死遺族や弁護士、研究者などからの聞き取り調査などを行い、検討してきた。
SEの健康被害や過労死の要因として、
①システム開発においてユーザー企業の都合で度重なる仕様変更があること、
②そういう中でも納期を厳守しなければならない場合があること、
③IT技術者が人員不足であること、
を要因とする長時間過密労働が発生し、これらを要因として、さらに、
④労働者が十分に教育・指導がされずにプロジェクトに配置されたことで、スキルミスマッチが起きて精神的に追い込まれてしまう場合があること、などが挙げられる。
その結果、うつ病などを発症し過労死や過労自死に至るケースも起きている。

2016年度の過労死等防止対策白書が出された。そこには情報通信業について、「年間総実労働時間が 1,933 時間、所定外労働時間が 198 時間と高水準でるとされている(厚生労働省「毎月勤労統計調査」(平成 28(2016)年))。
2018年7月に公表された平成29年度「過労死等の労災補償状況」では、脳・心臓疾患の請求件数の多い業種で「情報通信業」は16件、精神障害の請求件数の多い業種では69件で第4位となっており、実態を裏付けている。

日本の社会全体に長時間・過密労働が蔓延しており、長時間労働を評価するという企業風土も根強い。196通常国会では、定額働かせ放題の高度プロフェッショナル制度、過労死ラインの上限規制などが入った働き方改革一括法案が成立した。企画業務型裁量労働制の拡大は、根拠としていたデータの改ざん、ねつ造が問題になり法案から削除されたが、再度、提出が狙われている。SE労働では客先で働くことも多く、裁量がないにもかかわらず、専門型裁量労働制を導入している企業が多数で、裁量労働制の拡大について注視していく必要がある。

IT化が進み、情報システムが無くては社会生活が成り立たない状況になっている。その一翼を担うSEにとって、法令が遵守され、安全・健康が確保され、ストレスが少なく生きいきと働き続けられるける環境のもとで、働きがいを持って成長していくことができる、8時間働けば暮らしていける賃金が保障される―ディーセントワークを構築することが重要である。こうしたことを実現することは、労働災害を防ぐことにもつながり、労働者だけでなく業界や企業の発展にとっても有益であるとの立場から、情報サービス産業の健全化にむけた提言をまとめた。

Ⅰ.業界にむけて―情報サービス産業協会

SE労働で、過労死やメンタルヘルス疾患が多発しているという状況を打開するためには、長時間・過密労働を是正させることが必要であり、それは喫緊の課題である。業界として過労死防止に取り組み、長時間労働を是としない風土をつくる必要がある。長年にわたって改善されない多重下請け構造、業務委託や請負契約でありながら客先常駐し、客先の指示で働いているという業界の不健全さもある。これらをなくすための改善策について提起する。

  1. 企業の責任があいまいになる多重下請構造を是正させること。そのため、関係省庁と連携し、元請け企業と下請け企業の労働者を直接マッチングさせる公的なシステムを構築すること。
  2. 仕様変更・機能の追加があった場合、追加料金の支払い及び納期の延長を行うことを業界全体の取り決めとすること。
  3. ユーザー企業(発注企業)とシステム開発企業(受託企業)はビジネスパートナーとして、対等平等の関係性を築くこと。
  4. 労働者のスキルアップは業界の発展にとっても有益である。企業やプロジェクトを移動する間を利用するなどして、スキルアップのための研修等を行うシステムを構築すること。
  5. 終業から始業までの間に11時間以上の連続した休憩(勤務間インターバル制度)を制定させること、残業時間の上限規制をせめて週15時間、月45時間、年360時間とし、早急に実現することなど、実効性のある規制をするよう関係企業に対し指導すること。
  6. 労働者が業務時間外に業務関連の電子コミュニケーションから切断する、対応しない権利の確立について、業界全体として早急に検討を開始すること。
  7. 保守業務等で、夜間・深夜、休日でも早急にトラブル対応しなければならない場合の待機時間については、労働時間として賃金を支払うことを業界全体の取り決めとすること。
  8. 客先常駐で仕事をするという特性からプロジェクトごとに通勤時間が変化するということに鑑み、自宅での生活時間を確保できる「最低生活時間」について、今後検討すること。
  9. 労働基準法、労働安全衛生法など法令を遵守し、職場環境の改善や健康管理を行うよう、関係企業に対し指導すること。
  10. 技術面やトラブルなどについて、SEが総合的に相談できる窓口を設置すること。

Ⅱ.企業にむけて

SE労働は、プログラムの仕様が明確でない中で、開発を進めるといことが少なからずある。その結果、度重なる仕様変更があり、それでも納期を守らなければならないために長時間・過密労働につながる悪循環がある。バグ(プログラムの誤り)を見つけるために長時間かかる場合もある。こうした悪循環が起こらないようにするとともに、労働安全衛生の基本である労働時間の実態把握が必要である。電通事件を受け、厚生労働省から「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」も出されている。働き方改革一括法が成立し、健康管理の観点から、裁量労働制が適用される人や管理監督者も含め、すべての人の労働時間の状況が客観的な方法その他適切な方法で把握されるよう法律で義務付けられることになった。
SEは客先常駐で仕事をすることが多い。労働者には裁量がなく、膨大な業務量があり残業しないと処理できないという状況であるにもかかわらず、専門業務型裁量労働制が導入されている場合がある。企業が裁量労働制を導入するのは、「みなし労働時間」に対応する一定の残業代さえ支払えば、それ以上に残業代を支払わないで働かせることができるからであり、まさに定額働かせ放題だ。また、成果主義賃金である場合、「残業代を請求すると能力が低いとみなされ評価が下がるから、申請できない」、プロジェクトは本来、協力しあって進めるべきであるが「自腹で本を買って、睡眠時間も削り勉強し、苦労して身に着けたスキルを競争相手にタダで教えたくない」というような弊害も出ている。
さまざまな問題の解決のためには、元請け企業がプロジェクト運営のすべてについて事業者として責任を負い、元請け企業・下請け企業が一体となって法令を遵守し、労働者に対し周知徹底し、企業責任を果たすことが必要である。この観点から、以下について提起する。

1.発注企業(ユーザー企業)にむけて

  1. システムの要件、仕様等を明確にしてから発注すること。
  2. やむを得ず仕様が明確でないものを発注する場合は、仕様変更を考慮した費用、納期とすること。

2.元請け企業(1次請け)にむけて

  1. ユーザー企業からシステムの要件について、十分にヒアリングを行うこと。不測の事態などに対応できるよう見積に反映させ、ユーザー企業と契約を締結すること。
  2. 納期を十分に確保できるよう、ユーザー企業に働きかけること。
  3. 作業環境を整えること。
  4. 終業から始業までの間に11時間以上の連続した休憩(勤務間インターバル制度)を制定させること、残業時間の上限規制をせめて週15時間、月45時間、年360時間とし、早急に実現することなど、実効性のある規制をするよう下請け企業に対し指導すること。
  5. 労働者が業務時間外に業務関連の電子コミュニケーションから切断する、対応しない権利の確立について、業界全体として早急に検討を開始すること。
  6. 保守業務等で、夜間・深夜、休日でもトラブルに対応しなければならない場合の待機時間については、労働時間として賃金を支払うことを業界全体の取り決めとすること。
  7. 客先常駐で仕事をするという特性からプロジェクトごとに通勤時間が変化するということに鑑み、自宅での生活時間を確保できる「最低生活時間」について、今後検討すること。
  8. 労働基準法、労働安全衛生法など法令を遵守し、労働者に対し法令など働くルールの教育を行うこと。職場環境の改善や健康管理を行うこと。
  9. 苦情・トラブルを申告する窓口を事業所内に設置すること。

3.下請け企業(2次請け以降)にむけて

  1. 過半数労働組合、または過半数代表者と36協定をきちんと結び労働時間を適正に把握し、それに応じた残業代を支払うこと。
  2. プロジェクトに必要なスキルの習得、さらにスキルアップするため、経験のあるSEが指導するなど就業時間内での研修等を実施すること。
  3. SE労働になじまない裁量労働制の適用は止めること。

Ⅲ.プロジェクトにむけて

プロジェクトには、さまざまな企業からの労働者やフリーランスが混在して働いている。プロジェクトでの問題については元請け企業が全責任を負い、改善させることが重要である。

  1. 業務の遂行管理・健康管理の責任者として、業務内容を十分把握し、管理能力があり、労働基準法、労働安全衛生法など必要な教育を受けたプロジェクトマネージャーを配置すること。
  2. 十分な納期を確保すること。
  3. システム開発に関する能力が備わった人を配置すること。困った時に相談ができる、援助ができる、システム開発に関する教育を行うことができることなどを考慮した十分な人員配置を行うこと。
  4. 仕様変更をなくす、またはできる限り減らせるよう、設計段階からユーザー企業とのコミュニケーションを密にすること。
  5. プログラムの仕様および変更履歴等を文書できちんと残すこと。プロジェクト終了時にすべての点検を行うこと。
  6. 長時間労働、サービス残業があたりまえになっている状況を改善すること。
  7. システム開発業務の計画と実績の管理(そのプロジェクトが何カ月で何人の計画だったが、実際はどうだったか)をプロジェクメンバーが共有できるように「見える化」すること。
  8. プロジェクト全体の状況が見え、お互いを理解しあい、ハラスメントのない職場になるよう作業環境を整えること。

Ⅳ.関係省庁等にむけて 

1.厚生労働省

政府は「働き方改革」で長時間労働の是正を挙げており、厚生労働省として、情報通信業向けの『働き方改革ハントブック』を作成していることは承知している。経済効率優先ではなく、労働者の安全や健康を第一とする規制を実現させるため、監督行政としての役割を果たすことが必要である。

  1. 労働基準法、労働安全衛生などの法令を遵守させ、職場環境の改善や健康管理を行うよう関係業界・企業に対し指導すること。
  2. 長時間労働が蔓延するSE労働の実態についてきちんと把握し、違反を摘発し是正させること。
  3. 労災の担当官は、SE労働の内容を十分に理解すること。そのためにシステム開発業務の計画と実績の管理(そのプロジェクトが何カ月で何人の計画だったが、実際はどうだったかなど)をプロジェクメンバーが共有できるように「見える化」することを企業に義務付けること。
  4. 労災認定の判断をする際は、スキルミスマッチがあったがどうかのチェックも行うこと。
  5. 終業から始業までの間に11時間以上の連続した休憩(勤務間インターバル制度)を制定させること、残業時間の上限規制をせめて週15時間、月45時間、年360時間とし、早急に実現することなど、実効性のある規制をするよう業界団体および関係企業に対し指導すること。
  6. 労働者が業務時間外に業務関連の電子コミュニケーションから切断する、対応しない権利の確立について、業界全体として早急に検討を開始するよう業界団体および関係企業に対し働きかけること。
  7. 保守業務等で、夜間・深夜、休日でもトラブルに対応しなければならない場合の待機時間については、労働時間として賃金を支払うことを業界全体の取り決めとするよう、業界団体および関係企業に対し働きかけること。
  8. 客先常駐で仕事をするという特性から、プロジェクトごとに通勤時間が変化するということに鑑み、自宅での生活時間を確保できる「最低生活時間」について、今後検討すること。
  9. 多重下請構造を是正させる、偽装請負を取り締まること。元請け企業と下請け企業の労働者を直接マッチングさせる公的なシステムを構築するために、関係省庁、関係業界と協力すること。
  10. 違反の摘発・取り締まり、迅速な労災認定を行うため、労働基準監督官、技官、事務官を大幅に増員すること。
  11. 元請け企業が、プロジェクト全体に関しての責任を果たすようと指導すること。

2.経済産業省

長年にわたって改善されない多重下請け構造、請負契約でありながら客先常駐で客先の指示で働いているという偽装請負問題について改善することが必要である。

  1. 多重下請構造を是正させること。そのため、関係業界と連携し、元請け企業と下請け企業の労働者を直接マッチングさせる公的なシステムを構築すること。

Ⅴ.IPA(独立行政法人情報処理推進機構)にむけて

  1. 情報セキュリティ、IT人材育成等の施策の展開に加え、下記について実施すること。
    プロジェクトのマネジメント方法、システム開発のノウハウ等をまとめ、公開すること。

以 上


SEブラックプロジェクトチェックリスト10項目(最終案)

2018年6月

  1. 多重派遣や偽装請負など、違法な雇用形態が蔓延している。
  2. 十分な予算、開発期間が確保されていない。
  3. システム開発に必要な能力が備わった人員が配置されていない。
  4. 発注者や元請けの無理な要求が多い(仕様が決まらない。無理なスケジュールや頻繁な仕様変更等)。
  5. プロジェクトマネージャー(PM)等の管理者がプロジェクトを管理できていない。
  6. チーム内や元請け・発注者との関係やコミュニケーションが良好ではない。
  7. ハラスメント、責任転嫁など、チーム内のモラルが崩壊している。
  8. 終電帰り・徹夜・休日出勤等の長時間労働が当たり前になっている。
  9. 残業代が出ないなど、プロジェクトメンバーに正当な対価が支払われていない。
  10. 体調不良を訴えるメンバーが多く、うつ病などの精神疾患や過労死が出ている。
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