2007年6月

危険な実態を洗い出し、安全な職場づくりを進めよう
厚生労働省の安全週間(7月1日〜7日)にあたって

働くもののいのちと健康を守る全国センター
第2回理事会

 平成18年の労働災害による死亡者数は1、472人、前年比42人(2.8%)減と初めて1、500人を下回り過去最少となったものの、重大災害(一時に3人以上の労働者が業務上死傷又はり病した災害)は昭和49年以降最多の318件で、前年比53件(20.0%)増となっています。このように労働災害が減らない中、厚生労働省は、7月1日〜7日(準備期間6月1日から6月30日)に安全週間(下記のURLを参照)をとりくむとしています。これにあわせ全国センター理事会は、労働組合をはじめとする加盟団体に、安全で健康な職場作りのための呼びかけを行うことにしました。
http://www-bm.mhlw.go.jp/topics/2006/07/tp0701-1.htmlを参照)
 市民を巻き込んだJR西日本の重大災害、最近では大阪のジェットコースターの事故など大きな事故が後をたちません。これらの事故は、そこで働く労働者だけでなく国民にも大きな衝撃を与えました。労働災害を減らすことは今や国民的な課題であり、労働組合や地域・地方センターの役割も大きくなっています。
 労働災害が減らない原因の一つに、国民のいのち、健康よりも経済効率を重んじる今の政治があります。小泉、安倍内閣によって、アメリカ政府の要求にもとづくさまざまな規制緩和が進められました。タクシー、バスなど運輸関係の規制緩和の結果、業界での競争が激しくなり、運輸労働者の労働実態は過酷を極め、事故が多発しています。また労働者派遣法など労働法制の規制緩和によって、非正規の労働者が大幅に増え、十分な教育もなく危険な作業を強いられている実態があります。東京では派遣労働者の労働災害による死傷者数が2005年度から2006年度にかけ2倍に増えました。
 国民、労働者のいのちと健康を守ることが、いまや労働組合や地域・地方センターの大きな課題となりつつあります。国や企業に、国民・労働者のいのちと健康を守るための十分な対策を強めさせることが、いま切実に求められています。全国センターは労働法制などの規制緩和を強行し、労働災害を増やす政策をとり続けている安倍内閣に強く抗議するとともに、各労働組合、各職場や地域・地方センターで、とりくみを強化されるよう訴えます。

 厚労省の安全週間の実施要項は総花的ですが参考にはなります。事業所では厚労省の呼びかけに応え、安全大会、職場点検などが行われます。労働災害が減らない中、行政も企業もそれなりに力を入れなければならない実態がありますが、安全週間を形ばかりのとりくみにさせない私たちの主体的なとりくみが重要です。労働組合が事業主任せにせず、事業所を見直し安全を確保する運動を職場から作っていくことはきわめて大切です。そのためには、労働安全衛生法などの法規やリスクアセスメントなど安全性を向上させるための技法などを積極的に学びましょう。
 最初に大事なことは、働くもののいのちを守る立場から見て、危険で有害な作業、環境などを徹底的に洗い出すこと、安全点検を行うことです。労災事故のもっとも大きな要因は、個人の不注意ではなく、作業の仕方、作業の流れやシステム、建物や機械など作業環境の中にあります。たとえば長時間労働を強いられ睡眠も十分でなかったトラック運転手の交通事故は、単に本人の不注意と言うことはできず、長時間労働そのものが規制されなければならないことは明らかで、その実態調査は事業所まかせにはできません。
 まず職場や労働組合で、そのような危険な実態を出し合いましょう。とりわけ派遣、請負などの労働者は危険な作業を任されがちです。労働組合に入っていない人もふくめ、実態を調べ、問題の所在を明らかにするための「危険で有害な作業、環境などを徹底的に洗い出すこと」の調査などに取り組みましょう。
 また労働安全衛生委員会がきちんと開かれているか、職場巡視、健康診断、安全教育などが労働安全衛生法をはじめとする法令にもとづいてきちんと行われているかどうかの点検も大切です。しかし法令を遵守するだけでは不十分です。法令を守っていても事故は起きる場合があります。未然に事故を防止するためには、法令遵守を最低ラインとし、常に安全対策を見直し向上させることが求められます。
 さらに事業所内の労働組合の点検だけでなく、同一産業内の労働組合同士で点検を進めるのも効果的です。働くもののいのちと健康を守る地方センター・地域センターなどで話し合い労働組合の横の連絡を密にし、できる地域では積極的にとり組みましょう。

 明らかになった危険な作業、長時間労働、建物や機械の構造など危険な実態を改善していくことが必要ですが、多くの改善すべき事項が出てきます。もっとも危険な実態から改善していくこと、優先順位を決めて目標を持ってとりくむことが大切です。労働安全衛生委員会などの議題とし、事業主と話し合い一つひとつ具体的な成果を勝ち取ることが重要です。事業主には安全配慮義務があり、事故を未然に防ぐ責任があります。
 中小零細企業では大企業本位の政治の下、きびしい経営を余儀なくされています。しかし一旦事故を起こすと信用が低下し、社会的な批判にさらされます。下請企業で安全対策が行えるような利益を元請企業が保障すること、自治体が補助を出すことなどを要求し、中小零細企業でも安全対策を前進させましょう。

 安全な職場作っていくためには、「安全週間」の1週間だけでは不十分です。継続的なとりくみにするために、労働安全衛生委員会がないところはこれを機会に設置しましょう。あるところも委員会の活動を活性化しましょう。設置が義務づけられていない50人未満の事業所でも労働安全衛生委員会を設置しましょう。労働安全衛生マネージメントシステムは、安全衛生の計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のサイクルで労働安全衛生活動をすすめていくことを求めていますが、PDCAサイクルを繰り返すなかで、健康で安全な職場が作られます。継続的にとりくみことが何より大事です。

 働くもののいのちと健康を守る地方センターとしても、加盟組織や地方、地域の労働災害の実態などから行政への要求をまとめ、労働局交渉を行うなどとりくみを強めましょう。また地方センター、単産中央は職場からの相談にこたえること、学習会の講師を派遣するなど、職場組織への援助を強めましょう。
 全国センターは労働安全衛生中央学校の講師である近藤雄二先生の著「慢性疲労 そのリスクのマネジメントを学ぶ」(学習の友社)を発行しました。その学習と普及を進めましょう。さらに10月20〜21日に第2回健康で安全に働くための交流集会を愛知県で開催します。全国からとりくみを持ちよって交流し、いのちと健康を守るとりくみをさらに前進させましょう。


 危険な実態を洗い出し、安全な職場づくりを進めよう
 第2回理事会は労働者、国民を巻き込んだ大きな事故が多発する中で、安全を守るための活動を強化しようと、次のアピールを発表しました。

 2007年6月
 厚生労働省の安全週間(7月1日〜7日)にあたって
 1.労働災害を減らすことは国民的課題
 2.危険な実態を洗い出そう
 3.事業主への働きかけ

 5.単産や「いの健」センターの役割
 少し誌面が変わりました が、いかがでしょうか。編集委員会、理事会などで、本誌の普及拡大と内容の改善を議論してきました。その論議の中で明らかになって来たことの1つは、労災職業病認定闘争などで大きな役割を果たしてきた本誌の伝統をふまえ、労働安全衛生活動など職場や地域での「働くもののいのちと健康を守る」のとりくみを重視した編集と言うことでした。
 今回の特集「メンタルヘルス不全への対応」はその具体化です。また新連載「労働安全衛生委員(担当者)のための相談・交流コーナー」も職場や労働組合運動に労働安全衛生活動が根付くことを願って設けました。全国センターに加盟する労働組合の労働組合員で労働安全衛生委員の方は相当数にのぼると思いますが、その人たちに本誌がさらに活用されることを願っています。相談・交流への投稿や実践報告を本誌に寄せて下さい。
 その他「学会情報」や「診察室からみた労働現場」も新連載です。研究者、専門家と「いのち健康を職場・地域で守る運動」をつなぐ役割も本誌に課せられた任務です。研究者や専門家の方々の積極的なご協力をお願いします。
 次号の第33号(秋季号、10月号)の特集は「アスベスト問題の現状とこれから」(仮題)を予定しています。政府のアスベスト対策の問題点、各地のとりくみと今後の運動の方向性などが鮮明にできたらと考えています。第34号の特集は「『労働ビッグバン』と健康」、第35号の特集は「若者の労働と健康」で議論を進めていますが、本誌が取り上げるべきテーマや連載企画など、積極的にご意見下さい。(I)

編集後記
4.とりくみを継続的にしよう