2002年12月5日
厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課 御中

(パブリックコメント)じん肺法施行規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する
省令案要綱に対する意見と要望

働くもののいのちと健康を守る全国センター
理事長  辻村 一郎

はじめに

 じん肺法施行規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令案について2002年11月12日にパブリックコメントが募集された。これは2002年10月発表された「肺癌を併発するじん肺の健康管理等に関する検討会」報告に基づいている。
 我々は1996年10月には「じん肺制度改革緊急提言」を発表しこの中で「肺がんをじん肺の合併症にする」ことを要望してきたが、今回の改定案は遅きに失したとはいえ大きな前進ととらえている。
 我々はこの間じん肺肺掘り起こし健診活動や相談活動、じん肺訴訟をつうじて、重症にもかかわらず労災認定を受けていないいわゆる潜在患者が数多く存在することを実証してきた。潜在化する要因として@患者(労働者)、医療機関ともにじん肺の法制度上の理解が極めて不十分であること A離職じん肺患者が労働衛生と公衆衛生の「谷間」に存在し行政上の対応が不十分であることを指摘してきた。
 そこでこの新たなが実効性あるものとなるように以下の点を要望する。

 

1.肺癌を労災補償とする新制度の周知徹底

(1)患者・労働者に対する周知徹底

@じん肺で既に合併症で労災認定を受けている者に対して
・各労働基準監督署においてこれらの患者さんは把握していると思われる。
・患者・家族に対して、解説書等を用いて監督署職員が直接わかりやすく説明する必要がある

A管理区分3でじん肺健康管理手帳保持者
・定期健診受診時に、@同様の資料を用いて説明会等を実施する

B現役労働者で管理区分2,3の決定を受けている者
・職場における健康教育において新通達の内容の教育
・離職時にじん肺健康管理手帳交付の徹底と、@同様の資料の配付

C就業時に管理区分3の決定を受けていた離職労働者のうち健康管理手帳未交付者
・健康管理手帳の交付申請の推進とともに@資料の配付

D新たに手帳が交付される管理2の離職者
・定期健診受診時に、@同様の資料を用いて説明会等を実施する

(2)医療機関に対する周知徹底

@じん肺患者を診療している医療機関に対して
・じん肺労災認定患者の診療に当たっている医療機関は、各労働基準監督署において把握されている。しかし、じん肺患者を診療している医師の多くは未だ昭和53年11月2日付け基発608号をもって判断していると思われる。合併症がないじん肺患者に発生した原発性肺がんも労災補償されることなど新通達に関して十分な理解を得られるように文書・解説書を用いて徹底する必要がある

A医療機関全体に対して
・労災未認定の患者は、労災指定医療機関以外にも多く受診している者と思われる。医師会等の医療団体を通じるなど周知徹底をはかって頂きたい。

B医師等に対する研修
・じん肺有所見者の総数の把握を早急に行う必要があるが、相当数に上ることが予想される。確実な健康管理体制を確立するためにも、医師等に対するじん肺に関する研修を重視して行っていただきたい。

(3)労働基準監督署等への周知徹底

 新通達を徹底するための患者・労働者用、事業所用および医療機関用の解説書を厚生労働省において、作成配布すること
 当然の事ながら各労働基準監督署において、患者・家族からの労災申請・質問に関して適切な援助活動を実施して頂きたい。

2.過去にさかのぼった労災認定を

 じん肺に合併した肺がん患者の療養補償・休業補償・遺族年金等の補償請求が出されている事案に関して、さかのぼっての早期認定を求める。(2001年脳血管疾患の新通達に基づく対応に準じた対応)
 また未請求の肺癌患者も過去にさかのぼって労災認定を行うことを求める

3.すべての粉じん作業者に合併した原発性肺がんを労災に

 WHOの専門機関であるIARCは1997年結晶シリカをヒトに対する発ガン性があるとした。日本においても2001年4月、日本産業衛生学会は「許容濃度等に関する委員会」報告でシリカを発ガン性ありとする第1群に分類することを提案し2002年総会で確認されている。
 これらの学問的見地からは、じん肺患者のみならず粉塵作業従事者に発生した肺がんは業務上として労災補償の対象となるべきものである。
 厚生労働省においては粉じん曝露者に発生した肺がんがすべて労災補償の対象となるように改めて要望する。

4.現在粉じん作業に従事している労働者に健康管理手帳の交付を

 今回新たに健康管理区分2の離職者に健康管理手帳が交付されることとなった。このことは、進行性の疾病であるじん肺の生涯健康管理を推進していく上で前進であると考える。
 しかし現在の労働状況を考えると、多数の粉じん作業者が存在するトンネルなどの建設業などでは多くの労働者は出稼ぎなど不安定な雇用状況におかれている。そこで粉じん作業の離職時点が不明確となっている。「離職時=退職時」といった終身雇用制度を前提にした、離職時の健康管理手帳交付制度では、じん肺健康管理手帳未交付者が今後も無くならないと思われる。
 従って、粉じん作業に3年以上従事した労働者もしくは、管理2の労働者には生涯健康管理システムとして「じん肺健康管理手帳」を交付し、定期健康管理の一元化を図るべきである。経費に関しては、就業中は事業主の責任において行い、離職後は労災保健で支払う現行制度が準用されるのが望ましい。

5.離職したじん肺有所見者に対する健康手帳交付の徹底

 この間の離職者じん肺患者の社会医学的研究によれば、管理区分3相当のじん肺有所見者のうち半数近くはじん肺健康管理手帳を保持していなかったとする報告が行われている。新たに交付対象となった健康管理区分2の者に加え、管理3の離職者で手帳未交付者にも健康管理手帳交付申請の推進・広報を、各県労働局の責任において行うことを求める。この際、現行制度では離職じん肺患者は、老人健康保健法に基づく住民健診を受診している者が多いことから、地方自治体との連携を図る必要がある。

6.じん肺健康管理手帳に基づく健診の実施について

 今回の改訂により、じん肺有所見者の年1回のヘリカルCT撮影と喀痰細胞診が行われることとなる。

@じん肺有所見者の健康診断を実施する医療機関は現行制度では、各県平均3カ所の医療機関に限定されている。管理2のじん肺有所見者をも対象とすると、受診者数も相当の数に上る事が予想される。受診者の利便性を図る上でも、医師選択の自由の観点からも、労災指定医療機関のうちヘリカルCT撮影の設備を有している医療機関での受診も認めるべきである。

ACT写真の標準フィルム作成
・今回実施するヘリカルCTでは、じん肺の進展度を示す標準写真が作成されていない。じん肺の定期健診が肺ガンの早期発見に限定されたものではなく、その本来の目的は、じん肺の健康管理区分の的確な把握であることからすれば、じん肺の健康管理区分決定の重要な検査項目である胸部CT写真の標準フィルム作成は必要である。標準写真決定に際しては、日本産業衛生学会など専門学会の意見をふまえて決定されるべきである。

B喀痰細胞診の頻度に関して
・じん肺有所見者に年1回の喀痰細胞診検査を行うことが提案されている。この年1回の喀痰細胞診は、老人健康保健法による住民健診での喀痰細胞診の実施回数と同様である。「肺がんを併発するじん肺の健康管理等に関する検討会」報告によれば、じん肺有所見者の肺ガンリスクは3.71とされている。このようなハイリスクグループの健康管理に際しては、他の特定化学物質と同様、年2回の喀痰細胞診が行われるべきである。

C労災認定患者の喀痰細胞診実施頻度について
・さらに、労災認定じん肺患者に関しては、発見の困難性や治療の制限など一層医療実践上の不利益が生じている。このことから労災認定患者の喀痰細胞診検査に関しては労働基準監督署が年1回といった今回の提案に機械的に制限せず、主治医の判断を尊重する様指導していただきたい。

以上

じん肺法施行規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令案について(回答)