2002年1月15日

過労死認定「新基準」に対する談話

働くもののいのちと健康を守る全国センター
事 務 局 長    池 田  寛 

 厚生労働省、人事院、地方公務員災害補償基金は昨年12月12日、新たな「過労死認定基準(脳血管疾患及び虚血性心疾患―負傷起因を除く)」を発表した。
 三つの新認定基準は、「長期間にわたる疲労の蓄積」(長期間の過重負荷)が脳・心疾患の発症に影響を及ぼすことを認め、そのため、判定の期間を発症直前1週間から発症前6カ月間に拡大したこと、また、労働時間以外の「過重性」の「就労態様」の要因として、(1)不規則な勤務、(2)拘束時間の長い勤務、(3)出張の多い業務、(4)交代勤務、深夜勤務、(5)作業環境(温度環境、騒音、時差)、(6)精神的緊張(心理的緊張)を伴う業務を明示し、それらの「負荷の程度を評価する視点」を示したことは評価し、重要な前進と考える。
 また、新基準が過労死につながる時間外労働として、発症前1カ月の100時間、発症前6カ月の80時間の時間外労働の認められる業務は過重な業務であると明示し、1カ月45時間を超える時間外労働は健康上有害であることを明示したことは、時間外労働と過労死の関係を時間数を含め示したものであり、サービス残業の根絶はじめ時間外労働の削減など、職場で健康を守りながら働くための予防の基準を示したことにもつながり、大いに活用できる内容である。これらは、長年にわたって被災者・家族、そして支援者たちのとりくみと全国センターなどの運動の成果であり、私達の要求の反映である。
 全国センターは、これまで過労死の認定基準に関し、過労死を考える家族の会、弁護士、医師、専門家、支援団体などセンター内外の関係者・関係団体と共同し、研究会等での調査・研究活動の成果をふまえ、「過労死認定基準抜本改正要求」としてまとめ、旧労働省との交渉(一昨年12月)や厚生労働省との交渉(昨年10月)を行い、厚生労働省の「脳・心疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」が出された後も、それに対して、「脳・心疾患の認定基準に関する専門検討会報告書に対する意見と要望」を厚生労働省に提出(昨年12月)してきた。
 全国センターは、この間の運動の成果として改正点を評価し、運動に活用すると同時に、私たちの「抜本改正要求」「意見と要望」に照らしてみれば、まだ問題や課題が多く残されており、早急な改善を求めるものである。

 私たちは過労死の労災認定にあたって、業務との因果関係が、医学的に証明(厚労省の新基準では、「医学上妥当なものから、医学経験則に照らして」に表現は変わったが)されなくても、一般経験則上業務が血管病変をその自然経過を超えて増悪させた蓋然性が高いと認められれば「業務上」と認め、労災補償を適用することが労災保険制度の根本精神に照らして適切であると考える。最高裁判例でもこの考え方が明確に判示されている。新基準は、「過重負荷」を現行の血管病変等を自然経過を超えて「急激に著しく増悪させる負荷」から、「急激に」の文言を削除した。しかし、「著しく」を残し、「特に」と強調しているが、自然経過を超えて増悪させる過重負荷のある業務に従事していることが認められれば労災と認めるべきである。
 「業務過重性の判断基準」である「評価の基準になる労働者」を「基礎疾病を有するものの日常業務を支障なく遂行できる労働者」と変更したが、当該労働者本人とすべきである。また、業務により適切な治療を受けることができず疾患を発症、増悪させ、もしくはその増悪により死亡した場合についても、最高裁判例にあるように、業務上と認める認定基準を制定すべきである。
 また、新基準は、「労働時間」を「疲労の最も重要な要因」として発症前1カ月100時間を越える時間外労働、発症前2カ月ないし6カ月にわたって1カ月おおむね80時間を越える時間外労働は「業務と発症との関連性が強い」としているが、発症前1カ月ないし6カ月にわたって、1カ月45時間以内の時間外労働は「業務と発症との関連性は弱い」とし、45時間を越えて時間外労働が長くなればなるほど「業務と発症との関連性が徐々に強まる」としている。これは、時間外労働が45時間以内、及び45時間から80時間の場合、「過重労働」と認めないことにつながる運用上の危険がある。そのため、「疲労の最も重要な要因」として「労働時間」だけでなく、明示されている「労働時間以外の要因」である「就労態様」の6つの業務も「重要な要因」として位置づけ、被災労働者の労働実態に即して「過重負荷」のある「過重な業務」として総合的に評価すべきである。
 これら指摘した点は、すでに裁判での判例でも示されているものであり、不幸にも被災した労働者・家族の救済のためにも今すぐ改善・見直しすべき内容である。いのちと健康全国センターは、引き続き認定基準の改善と認定闘争前進のため、働くもののいのちと健康を守るため多くの団体と共同してさらに奮闘する決意を表明する。
 

以 上