2001(平成13)年12月11日

厚生労働大臣 坂口 力 殿

 

厚生労働省「脳・心臓疾患の認定基準に関する検討会」報告書

に対する意見と要望

働くもののいのちと健康を守る全国センター

理事長 辻村一郎

全国過労死を考える家族の会

代表 永山美恵子

はじめに

 働くもののいのちと健康を守る全国センターは、全国過労死を考える家族の会と共に10月10日に厚生労働大臣に対して、「過労死認定基準(脳血管疾患及び虚血性心疾患―負傷起因を除く)抜本改正要求」を提出し要請交渉を行った。

 厚生労働省は11月15日「脳・心臓疾患の認定基準に関する検討会」報告書を公表したので、これに対する意見と今後の認定基準改正に向けての要望を述べたい。

報告書が、「長期間にわたる疲労の蓄積」(長期間の過重負荷)が脳・心臓疾患の発症に影響を及ぼすことを認めたこと、そのため、判定の判断材料とする過去の労働の期間を発症直前1週間から発症前6カ月間に拡大したことは改善として評価したい。

 また、労働時間以外の「過重性」を判断するための「就労態様」の要因として、(1)不規則な勤務、(2)拘束時間の長い勤務、(3)出張の多い業務、(4)交代制勤務、深夜勤務、(5)作業環境(温度環境、騒音、時差)、(6)精神的緊張(心理的緊張)を伴う業務を明示し、それらの「負荷の程度を評価する視点」を示したことも評価する。

 これらは長年にわたって被災者・家族、そして支援者たち取り組みの成果であり、要求の反映であると考える。

 しかし、私たちの抜本改正要求からみれば、まだ問題や課題が多くあり、以下さらなる認定基準改正に向けて意見と要望を示すこととする。

 

<認定要件>について

 

 (1)報告書は、「過重負荷」を現行の血管病変等を自然経過を越えて「急激に著しく増悪させる負荷」から、「急激に」の文言を削除した。今後さらに、認定基準では、「著しく」も削除して、「自然経過を越えて増悪させる過重負荷の労働であれば労災と認める」とすることを求める。

(2)「業務過重性の判断基準」である「評価の基準になる労働者」は、現行に、「基礎疾病を有するものの日常業務を支障なく遂行できる労働者」を追加したが、当該被災労働者本人にとって過重であればよいとすべきである。

 (3)業務により適切な治療を受けることができず疾患を発症、増悪させ、もしくはその増悪により死亡した場合については報告書には触れていないが、最高裁の判例にもあるように、この場合も業務上と認める。

 

<認定要件の運用基準>について

 

 (1)「過重負荷」は業務が疾病の自然経過を超えて増悪する要因であれば足りるものとし、それは、当該労働者にとっての過重負荷のある業務であればよいとする。

 また、「過重負荷」は「急激に著しく」血管病変等を増悪させる負荷である必要はない。「急激に著しく」は削除すべきである。

(2)「異常な出来事」については、災害性のものとする現行基準は当然認定し、それ以外に「疾病悪化となりうる出来事」が認められれば業務上と認定すべきである。

(3)「業務の過重性の総合評価」

 <1>「長期間にわたる過重の評価」として、発症前6カ月における就労状態を評価期間としたが、労働衛生の知見では1年、最高裁判例では1年6カ月もあり、当該被災労働者の実態をふまえ、「発症前6カ月以上」とすべきである。

<2>「過重負荷の総合評価」として、「労働時間、勤務の不規則性、拘束性、交代制勤務、作業環境などの諸要因の関わりや業務に由来する精神的緊張の要因」を明示したが、それらが当該労働者にとってどうであったのかを総合的に調査し、評価すべきである。

<3>「労働時間」を「疲労の最も重要な要因」として「着目」するとして、発症前1カ月100時間を越える時間外労働、発症前2カ月ないし6カ月にわたって1カ月おおむね80時間を越える時間外労働は「業務発症との関連性は強い」としているので、この場合は当然労災と認めるべきである。

しかし、発症前1カ月ないし6カ月にわたって、1カ月45時間以内の時間外労働は「業務と発症の関連性が弱く」とし、45時間を越えて時間外労働が長くなればなるほど「業務と発症との関連性が徐々に強まる」としている。

この基準は、時間外労働が45時間以内、45時間から80時間の場合、「過重負荷」と認めないことにつながる運用上の問題が大きくあるといわなければならない。

<4>そのため、「疲労の最も重要な要因」として「労働時間」だけでなく、明示されている「労働時間以外の要因」である「就労態様」の要因としての(1)不規則な勤務、(2)拘束時間の長い勤務、(3)出張の多い業務、(4)交代制勤務、深夜勤務、(5)作業環境(温度環境、騒音、時差)、(6)精神的緊張(心理的緊張)を伴う業務も「重要な要因」して位置づけ、被災労働者の労働実態に即して、「過重負荷」「業務の過重性」として評価すべきである。

 <5>また、この他「労働時間以外の要因」として、事業主が労働者の健康保持義務、適正労働条件確保義務、安全配慮義務、安全・労働基準(法基準・省令・通達など)、産業別安全基準に違反した場合や健康診断を受診させない、健康診断結果事後措置がされてない、医療・治療機会がない場合も業務上と認定すべきである。

 

<取り扱う疾病>は、認定基準には脳血管疾患及び虚血性心疾患を対象疾患としているが、それ以外の循環器疾患でも業務との因果関係が推認できれば労災と認定することを明示すべきである。

 

<認定行政>もこの認定基準改正を機会に大きく改善して、労基署が入手した資料・情報は申請者の請求があれば、業務上外の如何にかかわらず、プライバシー保護を前提にすべて公開し、労災認定行政に関わるあらゆる情報はすべて公表すべきである。

 また、労災申請から認定判断を決定する期間は6ヵ月以内とし、そのためにも認定担当者の増員と法の精神に基づく適正な「被災労働者・家族救済、労働者保護」の立場からの労災認定行政研修を充実させ必要がある。

 

 最後に、これを機会に被災労働者・遺族の要求でもあり、国際的な労災認定補償の流れにそった、現行の被災者側の業務起因性の立証責任を雇用主側の非業務起因性の立証責任(雇用主が労災でないと立証しなければ労災と認定)とするの抜本的改正への転換を検討すべきである。

以上