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第11回総会決定集

第11回総会の概要

働くもののいのちと健康を守る全国センター第11回総会は、2008年12月5日に東京の平和と労働センター2階ホールで行われた。
 総会には団体会員代議員129名中53名、個人会員代議員84名中6名、役員37名中32名の合計91人の総会代議員および役員が出席した。委任状は団体代議員41名、個人代議員37名、役員2名の合計80名から寄せられ、出席代議員・役員と委任状は177名となり、総会で議決権を有する代議員・役員250名の過半数を超えて成立し、すべての議案を満場一致で採択し終了した。
 開会あいさつは井上久副理事長が行い、議長には生協労連・渡邉一博代議員・京都センター・芝井公代議員が選任された。資格審査委員は柴田和啓事務局次長、鈴木得男代議員(自治労連)、吉倉正氏代議員(大阪センター)、議事運営委員は岩永千秋事務局次長、神田豊和代議員(建交労)、廣田政司代議員(東京センター)が選ばれ任にあたった。
 福地保馬理事長は、「全国センター設立後の10年は、まさに労働者各層における心と体の健康破壊、健康格差の拡大という労働者の現時点における特徴的危機とともに歩んだ10年」と述べ、「10周年である今年の大きな仕事として、いの健運動の課題は何か、何をめざすのか、そのためにはどのような考え方と行動が必要なのかを明らかにしていこう」とあいさつした。
 来賓あいさつは3人から行われた。日本共産党・吉井英勝衆議院議員は、「労災・公務災害の不服審査制度のたたかい、石綿救済法改善のたたかいで大きな成果をあげられたことに敬意を表したい」、全建総連の宮本一労働対策部長は「昨年は189人が労災認定及び石綿救済法の適用を受けており、400人を超える組合員が申請中。建設労働者の呼吸器疾患はアスベストばく露を疑う必要がある。アスベスト被害者救済のためともに奮闘しよう」、全国じん肺弁連の山下登司夫幹事長は「医師、研究者、弁護士などが協力し合い全国的な疫学調査を」とあいさつした
 さらにILO駐日代表、韓国・源進職業病財団、労働科学研究所、全農協労連、全国保険医団体連合会、過労死弁護団全国連絡会議からメッセージ・祝電が寄せられ紹介された。
 活動方針案を提案した今中正夫事務局長は、@新自由主義の破綻と経済の行き詰まりの中で働くものの健康悪化が進んでいる情勢、A労働安全衛生活動の推進やアスベスト被災者の救済など今期のとりくみの総括、Bディ−セント・ワークをめざし協力・共同の輪を広げる今後1年間の方針案、08年度決算報告、09年度予算を提案した。会計監査報告は貝ノ瀬会計監査から、新年度役員の推薦提案は木部智明副理事長から行われた。
 討論では夜勤・交替制労働シンポジウム開催を求める意見など25人の代議員が発言(全国センター通信1月号、3面〜5面に掲載)。討論のあと今中事務局長より総括答弁が行われ、活動方針案、新役員選出案、09年度予算案などすべての議案が満場一致で採択された。
 第5回働くもののいのちと健康を守る全国センター賞は、京都労災職業病対策連絡会議と化学一般労働組合連合に贈られた。
 閉会あいさつは長谷川吉則副理事長が行い、すべての議事を終了した。

 

第11回総会活動方針

目次

T.はじめに

U.私たちをめぐる情勢

  1. 新自由主義の破綻と経済の行き詰まり
  2. 働くものの健康悪化

V.この1年の活動の総括

  1. 長時間労働の是正などディーセント・ワークの実現のとりくみ
  2. 職場、地域で働くもののいのちと健康を守る活動
  3. 被害者の完全な救済などアスベストのとりくみ
  4. 未来をになう活動家の育成
  5. いのちと健康を守る組織の強化
W.10年目を経過した「いの健」全国センターの課題
  1. 10年の成果と教訓
  2. 到達点と課題を明らかにしよう
X.ディーセント・ワークをめざし協力・共同の輪を広げよう−今後1年間の方針
  1. 職場、地域で働くもののいのちと健康を守る活動をさらに前進させよう
  2. 被災者救済のとりくみ
  3. アスベスト対策の充実を
  4. 労働安全衛生の活動家育成
  5. 組織の拡大、強化
  6. 10周年記念事業について


T.はじめに  

 全国センターが1998年12月に、働くものの健康、権利を守り、安心して働ける職場、社会の建設をめざし、活動をスタートさせ10年が経過しました。「4.10年目を迎えた『いの健』全国センターの課題」の項で明らかにするように、財界や政府・与党の攻撃に屈することなく、私たちは着実に前進してきました。
 1999年には派遣労働が原則自由化になりましたが、今日では非正規雇用労働者が3分の1まで増加しました。まさに日経連の「新時代の『日本的経営』」(1995年)にもとづいた財界・大企業の最大限に利潤を確保するための雇用戦略が吹き荒れ、派遣労働者をはじめ不安定雇用者が増え、成果主義賃金、長時間・過密労働が広がり、働き方が劇的に変わった10年でした。
 1998年は自殺者数が初めて3万人を超えた年ですが、貧困と格差が広がる中、この10年で、国民各層でいのちと健康破壊が進み、「うつ」など「心の病」は今や「国民病」の様相を呈し、働くもののいのちと健康も危機的な状況となっています。
 しかし一方的に攻撃を許してきたわけではありません。「異常な働かせ方」を改めよという私たちのたたかいも前進し、財界や政府がねらうホワイトカラー・エグゼンプションの導入を許しませんでした。全教の教員の持ち帰り残業など長時間労働を是正せよと言う要求に対し、文科省が初めて教員の労働時間調査を行いました。さらに「偽装請負」や「日雇い派遣」などの実態が国民に知られるようになり、不十分ながら政府も対策をとろうとしています。また筑豊じん肺訴訟、トンネルじん肺訴訟では働くもののいのちと健康を守る国の義務を認めさせ、過労死・脳心臓疾患の労災認定基準の改善を勝ちとり、メンタルヘルス対策の推進やアスベスト対策の充実を求める私たちのとりくみ、たたかいも前進してきました。
 そして世界的な金融危機、経済不況がはじまっていますが、この激動期にディーセント・ワーク(すべての働く人びとに、労働の基本的原則と権利、雇用と収入の確保、社会的保護、社会対話、働く価値のある労働が保障されていること)を要求し、働くもののいのちと健康を守っていく課題は、かつてなく重要な課題となりつつあります。
 10年を総括し、未来に向けた新たな方針をみんなでまとめることが求められています。


 
U.私たちをめぐる情勢
 
新自由主義の破綻と経済の行き詰まり
 
 サブプライムローン問題に端を発したアメリカ経済の金融危機は、リーマン・ブラザーズの破産、AIGの救済、大幅な株価の下落、急速な景気後退となり世界をゆるがしています。日本もこの影響を受け株式の全面安、円高となり、アメリカの金融危機の影響で景気の後退が急速に進行しています。国際通貨基金(IMF)は2009年に戦後初めて日米欧の成長率がそろってマイナスになるとの見通しを発表し、「雇用不安と利益減少の懸念が家計と企業に急速に台頭。いっせいに消費抑制に動く一方、企業も投資絞り込みに奔走している」と指摘しています。しかしこの金融危機は偶然に起こったものではなく、「金融を自由化し投資を活発にすれば経済は活性化する」とするとしたアメリカの新自由主義路線の破綻です。
  日本でも自民・公明政権はアメリカや財界・大企業の要求で新自由主義路線をとり、規制緩和や郵政民営化などを推し進め、国民に「自己責任」を強要し社会保障の解体、派遣法など労働法制の改悪を進めてきましたが、そのしわ寄せによって社会全体の構造が外需だのみのひ弱なものなっています。
  円高・輸出減少の影響で自動車産業など製造業で「派遣切り」や下請け業者への単価引き下げ強要などがはじまっていますが、国民、働くものに矛盾をしわ寄せし経済危機を克服することは許されません。今こそ内需を活発にするために、働くものの待遇を抜本的に改善し、国民のふところを豊にする政治が求められています。国民から見放された自民・公明政権は、この経済危機を口実に政権の座にしがみつき、金融機関や大企業を救済する対策を優先しています。その場しのぎの「2兆円の給付金」は、国民生活を守る積極的な政策とは言い難く、さらに多くの国民から見放される結果を招いています。
  新自由主義的な政策により国民、働く人びとの格差や貧困化、健康破壊が進む中で、労働者派遣法の改善を求める声が強まり「日雇い派遣」などをやめさせる方向で大きく運動が進んでいること、「反貧困」の運動がかつてなく高まっていること、社会保障、中でも後期高齢者医療制度の廃止に向け大きく運動が進んでいることなど、国民のたたかいも前進しています。
  これまでの経済政策をあたらめ、働くもの本位の政治を実現する勢力の総選挙での躍進が望まれており、政権交代が現実的になりつつあります。ディーセント・ワークなど私たちの要求をさらに高く掲げ、さらに運動を前進させるべき情勢です。

 
働くものの健康悪化
 
(1)一段と深刻化するメンタルヘルス不全、過労死、過労自殺
  厚労省のまとめでは、2007年度の脳心臓疾患による過労死の労災認定数は142件(申請318件)でした。精神障害等の労災認定数は前年比33%増の268件(申請952件)、うち過労自殺は前年比23%増で81件(申請164件)でいずれも過去最多です。脳心臓疾患の労災認定は50歳台が42%ともっとも多く、精神障害は30歳台がもっとも多く37%を占めますが、脳心臓疾患は50歳台、精神障害は30歳台に顕著にあらわれています。
 メンタルヘルス不全は官民を問わず、多くの職場、地域に広がっています。社会経済生産性本部の調査結果ではここ3年、7割の労働組合、6割の企業で「心の病」が増加し、自治体でも「心の病」は5割増加したとしています。首都圏のY市が行った調査(5000人対象で回収率は82.1%)でも、「何らかのうつ傾向があらわれる」と回答した労働者は42%にものぼっています。
 いずれの調査でも30歳台の5割前後に「心の病」が見られ、就職氷河期の世代にもっとも多く集中しています。要因としてその年代の学生時代の特徴や時代背景なども指摘されていますが、新卒採用を控えていたしわ寄せ(業務量の増加)、リストラや団塊の世代の大量退職にともなう役割の変化(管理業務の増加)などの負荷が30歳台に集中しているとの指摘もあります。
 さらに派遣など不安定雇用者は青年が多くを占めますが、雇用や生活の不安、ハラスメント等によるメンタル不全も深刻さをましていると思われます。
 国民全体では3万人を超える自殺者の半数が「無職者」であることから、失業、生活苦が背景にあることは言うまでもありません。


 (2)30代男性4人に1人が月80時間以上の残業  
 長時間労働については、従業員100人以上の企業の正規従業員を対象に独立行政法人の労働政策研究・研修機構が行った調査(2007年7月)によれば、80.8%にのぼる労働者が深夜・休日出勤や残業が「ある」と答えています。また、過去1年間に有給休暇を取得したことがない労働者は全体では18.3%で、週60時間以上働いている人にかぎると38.5%にはねあがります。労災認定基準による過労死ラインを超える週60時間以上(月80時間以上の残業)働く人は、30代男性では25%にもなります。長時間残業が野放しにされ、これに成果主義賃金が加わってサービス残業に拍車がかかっています。


 (3)健康診断結果、半数の労働者が異常
 50人以上の労働者を有する事業所が対象の一般定期健康診断の結果は、毎年有所見者の割合が増加し、2007年度には、49.9%の労働者が異常となっています。
 1990年の調査開始以来、健診異常者が毎年右肩上がりで増加していることは、厚生労働省などが主張する健康の自己責任論の押しつけでは労働者の健康は守れないことを明確に示しています。

 (4)派遣労働者で労働災害が急増している
 平成20年1月〜10月の労働災害による死亡者数は956人、前年より80人(7.7%)減、死傷者数は62,061人で昨年から213人(0.3%)減、重大災害(一度に3人以上の労働者が死傷した災害)も前年同期より2件減の201件となっています。しかし第11次労働災害防止計画(平成20年度〜24年度)では、死傷者数を15%減らすとしていますが、初年度からこの数値ではとても達成できません。
 しかも厚生労働省は、第10次労働災害防止計画(03年度〜07年度)の死傷者数を20%以上減らす目標は達成できず、「労働災害発生率の規模間格差は必ずしも縮小」せず、死傷者数の3分の2が50人未満事業所であると報告しています。
 また321万人を超える派遣労働者の中での労働災害が急増しています。厚生労働省によると全国の派遣労働者が労災(休業4日以上の死傷者数)に遭うケースが、2007年は前年比約60%増となっています。さらに中国地方5県の労働局がまとめた速報値では派遣労働者の労災が07年度は前年度より88.2%増加し、山口県では職場の経験期間1年未満の派遣労働者の労災が6割に達しています。派遣労働者では「ケガと弁当は自分持ち」という「労災隠し」が進み、ケガや病気から失業を余儀なくされるケースも少なくなく、文字どおり「使いすて」という事態が進行しています。
 労働災害20%減の目標が達成できない背景として厚生労働省は、業務請負等のアウトソーシングの増大、合併、就業形態多様化、雇用流動化等の進行の結果、「所属や就業形態の異なる労働者の混在化が一般化している」との認識を示しています。 政府・与党、財界が推し進めてきた、新自由主義路線にもとづく様々な規制緩和の結果が重大災害をもたらし、派遣労働者の労災の急増に結びついていると言わざるを得ません。

 (5)奪われる中小零細業者、農民の健康
 中小零細業者、農民も弱肉強食の政治によって痛めつけられています。大企業による2割、3割もの乱暴な単価切り下げの押しつけ、燃料、原材料の高騰や規制緩和による競争激化にさらされ、倒産の危機に追いやられています。経済的な理由での自殺や受診手遅れでいのちまでもが奪われています。過労や精神的な疲労によって「心の病」、「生活習慣病」も深刻な状況にあります。
 とりわけ国民健康保険では高すぎる保険料滞納による保険証取り上げと言う事態が進行し、受診の手控えに拍車をかけています。

 (6)今後深刻になるアスベスト問題
 総括の項でふれますが政府は私たちのたたかいにおされ、特別遺族弔慰金、特別遺族給付金の申請受付期間の延長を行うなど石綿救済法の部分的改善を行い、国の対策は一定前進しました。そして環境省は、石綿救済法の施行5年後(2011年)の見直しに向け、石綿肺など指定疾病の拡大(現在は肺がん、中皮腫のみ)、きびしすぎる認定基準の改善などに向け検討を開始しています。環境省の公害健康被害補償審査会が9月に中皮腫の4名の不服審査請求について2人を認定、後の2人は審査のやり直しを裁決し、「確定的に中皮腫と判断できる場合以外はすべて『中皮腫と判定できない』と判定することは問題」としましたが、これは私たちのたたかいの前進を反映しています。私たちの要求が実現するようさらに運動を強め、石綿救済法の抜本的な改善を勝ちとらなければなりません。
  多くの被害者はなお放置されたままであり、何の救済・補償もなく亡くなる被害者がほとんどです。さらにアスベストによる健康被害、中皮腫などは長い潜伏期間があり、顕在化してくるのはこれからです。
  さらに大量に使用されたアスベストの除去・廃棄が今後急速に進んでいきます。しかし現状では労働安全衛生法・石綿障害予防規則及び大気汚染防止法による規制が十分行われていません。「ワーキングプアー」とも言われている「日雇い派遣労働者」が保護具もつけず、教育も受けないまま除去・廃棄作業に従事させられている労働実態が国会でも明らかになっています。
  国と石綿関連大企業の責任を明らかにした救済・補償制度、ばく露した人への生涯にわたる健康管理、新たなアスベスト被害者を発生させないための対策、そのための基金制度の創設が重要になっています。
           

V. この1年の活動の総括

 今期、石綿救済法の改善、労災不服審査の中央での1段階化反対などの課題で、全国センターは運動のセンターとしての役割を発揮してきました。また労働安全衛生中央学校が4回目、健康で安全に働くための交流集会が3回目となるなど、諸行事も定着してきました。
 メンタルヘルス対策を重視し、労働組合のいのち、健康を守る活動も前進しました。また「5年以内にすべての県に地方センターを」と呼びかけ、「青年の労働と健康調査」で非正規雇用労働者のいのちと健康問題についてのとりくみも開始しました。
 全国センターは、理事会のもとにメンタルヘルス対策委員会、青年健康調査プロジェクト、地域共同部会、労働基準行政検討会、公務部会、アスベスト対策本部、労働安全衛生中央学校運営委員会、広報委員会(全国センター通信編集)、季刊誌「働くもののいのちと健康」編集委員会などの委員会、部会などを設置し、以下のとりくみを進めてきました。

     
長時間労働の是正などディーセント・ワークの実現のとりくみ
 
 この1年間で、情勢で述べたように「日雇い派遣」など非正規雇用労働者の悲惨な実態、正社員でも「名ばかり管理職」など残業代なしの長時間労働の実態が、より明らかになってきました。全国センターは労働法制中央連絡会に結集して派遣法など労働法制改善のとりくみを進め、1日8時間労働制を守り民主的な職場風土をつくることなど「人間らしく働く」ことの条件づくりが、最大のメンタルヘルス対策であることを明らかにしてとりくんできました。

職場、地域で働くもののいのちと健康を守る活動
 
 (1)労働安全衛生活動の推進
 @ 単産、地方センター、全国センターのとりくみ
  単産の活動では、自治労連が「自治体職場のメンタルヘルス研修会」を東西で行い、全教が「全国労安活動学習交流集会」、日本医労連が「第2回労働安全衛生活動全国交流集会」、生協労連が「第9回いのちと健康を守る交流会」、新聞労連が「心と体を守る全国集会」を開催するなど、多くの単産で学習、交流のための集会が持たれるようになってきました。また福祉保育労は健康アンケートにとりくみ「福祉労働者の健康対策の手引き」を作成し、化学一般は「心の病に関する予防協約書(案)」を作成して各職場での締結を呼びかけるなど、単産のとりくみが大きく前進しました。
  京都センターが「働き方を見直す京都7月集会」、東京地評が労働時間やメンタル不全の対応も含め「労働者の権利討論集会」を行っていますが、単産、地方組織の双方からの働きかけで、各職場で労働安全衛生活動が定着、前進しつつあります。
  全国センターは「職場を歩き、問題発見と改善提案で安全な職場づくりを進めよう−厚生労働省の安全週間(7月1日〜7日)にあたって」、「安全衛生活動なくして労働者の健康は守れない−全国労働衛生週間(10月1日〜7日)にあたって」を発表するとともに「全国センター通信」、季刊誌「働くもののいのちと健康」では職場や地域、単組の労働安全衛生のとりくみを積極的にとりあげ、交流をはかってきました。
 
  A メンタルヘルス対策委員会の設置と第3回健康で安全に働くための交流集会の開催
 全国センターは、10月11〜12日、京都市で「心の健康を守る職場・地域づくりを−第3回健康で安全に働くための交流集会」を開催しました。この集会には、全国各地から215名が参加しました。
 この集会は、今期設置されたメンタルヘルス対策委員会でまとめた問題提起が行われ、メンタルヘルス不全者を出さない職場・地域づくりのために、「8時間労働制の確保」「仲間を大事にする労組」など7つの課題が提起され、事業者に安全配慮義務、健康保持責任を求めていくことの重要性を強調しました。そして「うつ病と職場復帰」(阿部眞雄医師)、「心の病の理解のために」(松浦健伸医師)の記念講演や各職場からの報告を学び交流しました。
 記念講演で学び、参加者がメンタルヘルス対策を持ち寄り交流を深め、それぞれの職場、地域の課題を鮮明にして持ち帰ることができたことが大きな成果でした。
 メンタルヘルス対策委員会でこの集会を総括し、今後の課題等を整理することが求められています。

 (2)青年の労働と健康調査
 1万を目標にメンタルヘルスなどの健康実態を明らかにするため、全労連非正規センター、労働運動総合研究所とともに「青年の労働と健康調査」にとりくみました。現在進行中ですが、青年労働者、非正規雇用労働者の健康を守るためには何が必要か、政策的課題を明らかにすることが期待されています。

 (3)地域・職域丸ごと健康づくりと特定健診・特定保健指導への対応
 1月19日に特定健診・特定保健指導検討集会を開催しました。平和と労働センターで開催され、128人が参加しました。この集会の目的は@特定健診・特定保健指導制度の問題点を明らかにすること、Aその上で「地域・職域丸ごと健康づくり」をどのように進めるかを検討する、の2点でした。自治労連公衆衛生部会、全国保険医団体連合会、東京土建国保組合などから指定報告が行われ討論し、特定健診・保健指導制度の内容、問題点などの認識が深まりました。
 特定健診の導入で多くの自治体で混乱と健診事業の後退が見られ、「労働者の扶養家族は制度からもれてしまう可能性が高い」など多くの問題点が指摘されている中、第2回の検討会が11月15日に開催されました。この中では本来の健診、保健指導はどうあるべきか、服部真医師(石川・城北病院)に講演いただき、対応と今後の運動、とりくみについて交流しました。
 しかし労働組合としてどう対応していくかなどは今後の課題です。この制度では健康管理は労働者の自己責任とされますが、11月の集会でも「過重労働などを放置し自己責任を追及する保健指導では効果がない」ことが明らかにされ、企業の責任を明らかにした健診、健康管理を要求していく労組の役割が重要になっています。
 また非正規労働者への対応、中小零細企業での労安活動、地域と職域で統一して進める健康づくりなどは今後の検討となりました。

 (4)被災者救済の活動
 「自殺・過労死110番」が1988年にはじまって20年、現在も春と秋の2回全国各地でとりくまれ、被災者・遺族からの相談は増える一方です。その上「心の病」、腰痛、頸肩腕症候群などの職業病は増えています。
  この1年、労災・公務災害認定では、認定基準の不備を補う形で行政裁判が旺盛に提起されました。大阪の国立循環器病センターの村上さん過労死事案、北洋銀行の斉藤さん過労死事案(北海道)、NTTの奥村さん過労死事案(通信労組)、セイコーエプソンの犬飼さん過労死事案(長野)、小学校教員の尾崎先生過労自殺事案(静岡)、伊予市の給食調理員の小笠原さんの指曲がり症事案(自治労連)など多くの事案で勝利しました。民事訴訟ではスギヤマ薬品の杉山過労死事案(愛知)などで勝利しました。以上は主な勝利事例ですが、このほかにも数多くの労災認定や損害賠償を勝ちとり被災者救済のとりくみは大きく前進しました。
  全国センター2008年度係争事案調査(17地方組織の集約)によれば、2008年に上記のような勝利など終結した事例が37事例でしたが、継続・新規事例を含め105事例が係争事例となっています。内訳は精神障害が43件(うち過労自殺が29件)、脳心疾患が32件(うち過労死が18件)、筋骨格系が15件、中皮腫など石綿関係が7件などです。精神障害が昨年の35件から8件増えています。
  また係争場面は地方裁判所が22件、労働保険審査会が20件、労基署が22件、労働保険審査官9件などとなっていますが、依然として認定はきびしい状況です。
  しかし厚生労働省や地方公務員災害補償基金は、今なお認定基準の改善を行おうとはしていません。認定基準、不服審査制度の改善を求める運動をいっそう強化する必要があります。

  @ 精神障害判断指針の改善を求めるとりくみ
 5月15日、全国センターは厚労省に「金谷過労自殺事案の高裁判決などをふまえ『心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針』の改正を求める要請」を行いました。金谷過労自殺事案、中部電力過労自殺事案の高裁での2つの確定判決にもとづき精神障害判断指針を改定するよう強く求めました。金谷過労自殺判決、中部電力過労自殺判決は、過重性を一つ一つ切り離して判断するのではなく総合的に判断すること、長時間労働の過重性を認めること、うつ発症後の過重性の評価、パワーハラスメントの評価などで優れた内容となっています。
 全国センターの要請に対し厚労省は「パワーハラスメントは現在の指針で対応できる」などと答え、判断指針を改定する必要はないとしました。その後、厚労省は2月に中部電力過労自殺事案の高裁判決を受け、「上司の『いじめ』による精神障害等の業務上外の認定について」の通達を出したことが明らかになりました。
 8月21日、「パワーハラスメント、長時間労働等による精神障害に関する事例検討会」を行いました。これには笹山尚人弁護士、松浦健伸医師を助言者として迎え、職場のハラスメントについての学習を行い、各センターなどで扱っているハラスメント事例を検討しました。ハラスメントを精神障害判断指針で「強度V」(もっとも心理的負荷が強い出来事)に位置づけさせることなど私たちの要求を補強することを確認しました。

A 第3回公務災害認定闘争全国交流集会
 3月15〜16日、第3回公務災害認定闘争全国交流集会が静岡県伊豆長岡で開催され、59名が参加しました。医学的立証の重要性、意見書作成のためには医師と弁護士との連携が必要であることなどを学び、大阪・国立循環器病センターの村上過労死事案、滋賀から体育館のアスベストによる教員の中皮腫事案などが報告され、交流しました。

B 労働災害不服審査制度改悪反対のとりくみ
 今年に入り1月28日の労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会に、労働災害不服審査制度の改悪案が出されました。内容は労働局段階での審査官制度をなくし、事実上中央の労働保険審査会に1段階化するもので、被災者・遺族の権利を大きく奪うものでした。全国センターは労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会の傍聴行動を呼びかけ、同部会の部員に働きかけを行いました。2月22日には厚労省交渉を行い、現状でも労働保険審査会で裁決が出るまで5年、6年とかかっており救済率もきわめて低い状況を指摘し、「全国1ヶ所の労働保険審査会への審査請求では、救済の道はさらに遠ざかる」と厚労省に制度の改悪をやめるよう強く求めました。
 地方公務員公務災害補償法でも都道府県、政令市にある支部審査会を廃止し中央の本部審査会に1段階化する案が示され、全国センターの公務部会(全教、自治労連、国公労連など)は2月25日に総務省交渉を行うなど、反対運動を進めてきました。
 3月20日には、東京で「労働災害不服審査のあり方を問う」シンポジウムが開催され、このシンポジウムには、地方センター、労働組合、被災者・遺族、弁護士など54人が出席しました。「全国1ヶ所の労働保険審査会では、救済が遠ざかる」、「都道府県に第3者による審査機関を」、「本部審査会への一段階化は被災者にとって改悪」などの意見が出され、反対運動を強めることを確認しました。
 4月に入り行政不服審査法「改正案」、労働保険審査官及び労働保険審査会法、地方公務員災害補償法の「改正案」が国会に提案されましたが、4月9日には衆参の総務委員、厚生労働委員の議員らに「改正案」の廃案を求める国会行動を行いました。翌10日には日本労働弁護団、全国過労死弁護団、全国労働安全衛生センター連絡会議、働くもののいのちと健康を守る全国センターの4団体で、労働保険審査制度などの大改悪に反対する4団体アピール発表し、厚生労働記者会で記者会見を行いました。
 4月22日に労働保険審査会法、地方公務員災害補償法「改正案」の廃案を求めるファックスなどでの議員要請運動を提起し、4月26日に「労働災害不服審査制度のあり方を問う」西日本シンポジウムが行われ54名が参加し反対運動を強化することを申し合わせました。5月8日に日本共産党の国会議員と意見交換し、全国センターの要求や立場を「全国過労死を考える家族の会」などの団体とともに説明し、協力してたたかっていくことにしました。5月21日に石綿救済法の改善を求める国会行動とあわせ、民主党を中心に第2回目の議員要請行動を行いました。また高知では全教、日教組、自治労連、自治労が共同して地方公務員災害補償法の改悪、不服審査制度の中央への1段階化に反対するなど、ナショナルセンターを超えたとりくみが進みました。
 第169国会では私たちの運動で継続審議とすることができましたが、総選挙後の国会で審議されます。全国センターは国会の動きとあわせて署名運動を提起しますが、高知のように幅広い団体を結集し、運動を強化することが求められています。

C 過労死認定基準などの要求の整理
 その他第10回総会で「要求をまとめ政府へ要請行動を行おう」という提案があり、「統一要求」や過労死の認定基準の改善要求、メンタルヘルス対策やハラスメント対策についての対政府要求なども検討を進めてきましたが、来期の課題となりました。

D 北海道・聴覚身体障害者手帳不正受給事件
  昨年12月ごろから北海道で耳鼻科医、社会保険労務士、仲介者らが関与した大がかりな聴覚障害に係わる身体障害者手帳の不正取得疑惑が報道され、約600名を対象に警察の事情徴収が行われています。また同じ社会保険労務士と札幌市内の内科医師によるじん肺の労災申請にも不正があったと報じられています。
 北海道センターは、これは許すことができない反社会的行為であり、事実を徹底的に究明することを求める一方で、加盟団体の構成員に不正を行った被災者がいることを明らかにし、未然に防止できなかったことを反省しました。そして事件の解明、再発防止にとりくみ、被災者が安心して療養できる社会をめざすとしています。
 私たちは、@不正を許さない立場で対応しているか、A一つ一つの事案を集団で検討して対応しているか、B被災者救済が働くもののいのちと健康を守る運動につながっているか、等の視点からとりくみを見直し、このような事件を口実にしたじん肺、振動障害の労災補償打ち切りなどの攻撃を許さない活動を進めることが求められています。
 また非正規労働者への対応、中小零細企業での労安活動、地域と職域で統一して進める健康づくりなどは今後の検討となりました。


被害者の完全な救済などアスベストのとりくみ
 
 (1)石綿救済法改善署名運動と同法の改正
 全国センターは1月から「すべてのアスベスト被害者を救済するために石綿の救済に関する法律の改正を求める請願」署名にとりくみました。さらに民主党や与党の石綿救済法の一部を改正する法案が国会へ提出される動きがある中、急遽5月8日と21日に衆参の環境委員を中心に請願署名の紹介議員になることをお願いし「すべてのアスベスト被害者を救済するために石綿の健康被害の救済に関する法律の改正を求める要請」をしました。
 署名は東京土建、京建労、福建労などの建設関係の労働組合、国労などから多く寄せられましたが、国会終了後の集約も含め全体で10万を超える署名が集約され、日本共産党や民主党、社民党、無所属の議員が署名の紹介議員となり請願されました。そして第169国会で法改正が成立し、@石綿救済法施行前に地域ばく露で亡くなった被害者・遺族の救済は、法施行後3年で終わりにしないこと。A石綿救済法施行後に地域ばく露で亡くなった被災者・遺族について、生前に医療費療養手当の認定申請をしていなくても救済措置をとること。B石綿救済法施行前に亡くなり労災補償の時効になった被害者・遺族の救済は法施行後3年で終わりにしないこと。また石綿救済法施行後に労災補償の時効になった被害者・遺族についても救済措置をとること、の3点、私たちの請願項目で要求したことが実現しました。@とBの法施行前に亡くなった方の申請期限が法施行後3年から6年に延長され、法施行後に労災時効になった遺族の救済も法施行後5年まで行われることになりました。Aについては認定申請することなく死亡した患者、未申請死亡者にも特別遺族弔慰金等が支給されることになりました。
 「中皮腫や肺がんに限定している対象疾病の拡大」、「救済給付金額や認定基準を労災なみにすべき」などの請願事項は今後の課題となりましたが、石綿救済法の問題点を明らかにし、運動を推進した私たちの大きな成果でした。


 (2)健康管理手帳の発行
 9月に全国センター版アスベスト健康管理手帳を発行しました。国の健康管理手帳は検査結果の記入欄が中心でアスベスト被害者(ばく露者)の立場に立ったものとは言いがたく、さらに交付される被害者もかぎられていることから発行されました。現在、2,500部注文があり活用されていますが、国の健康管理手帳制度を改善させる運動とあわせ、積極的な活用が望まれます。

 (3)各地のとりくみと根絶を求める全国交流集会の成功
 5月には首都圏建設アスベスト訴訟がはじまりました。東京土建など首都圏の建設労働組合に結集する建設労働者200人以上が、国とアスベスト建材製造メーカーを相手に裁判に立ち上がりました。600万人とも言われる建設労働者のアスベスト健康被害を社会的にアピールし、国、石綿関連大企業の責任を問う重要なたたかいです。裁判闘争は大阪・泉南、尼崎、香川などでも粘り強く展開され、前進しています。
 各分野のたたかいでは、港湾、造船、製鉄、国鉄(現JR)などの労働分野でとりくみが前進しています。各地のたたかいでは埼玉・羽生市の曙ブレーキ周辺地域、石綿関連企業が多い静岡・富士市、石綿工場跡地がある東京・大田区、日本製紙がある山口・岩国市、福岡・北九州市などで地域的な運動が継続的にとりくまれています。
 北海道、首都圏建設アスベスト訴訟統一本部、静岡、愛知、大阪、山口、高知、福岡などの地方センター等では、この間アスベスト110番(電話相談)をとりくみました。大阪で50件、静岡で30件、首都圏建設アスベスト訴訟統一本部に22件など深刻な相談が寄せられました。各地で被害の掘り起こし、相談活動が進みました。
 また順天堂大学医学部病理腫瘍学教室と東京土建の共同で進められている中皮腫を早期発見するための研究型検診、全日本民医連の肺がんの胸部レントゲン、CT写真の再読影など、私たちの運動と連携した研究者、医療関係者のとりくみが進められています。
 9月13日には、「国と石綿関連大企業の責任を明らかにした被害者への十分な補償・救済対策と健康管理、予防対策の拡充を−アスベスト被害の根絶を求める全国交流集会」を開催し88名が参加しました。問題提起では、予防から補償まで国と石綿関連大企業の責任による抜本的で総合的な石綿健康被害対策を財政的に裏付ける立場から、「アスベスト健康被害基金」の創設を提起しました。さらに森裕之・立命館大学准教授の「世界のアスベスト問題」の講演では、もっとも手厚い被害救済制度をとるフランスでのアスベスト対策をはじめ世界各国のとりくみが紹介され、膨大な建造物の解体にともなうアスベストの排出とばく露の危険に直面する日本で、汚染者負担による救済制度をつくることが呼びかけられました。参加者は全国各地のとりくみを報告して交流し、被害の掘り起こしなどにさらに奮闘することを確認しました。


 (4)じん肺、振動障害のとりくみ
 じん肺では被災者救済のみならず予防措置の拡充を求めたたかいが進んでいます。アスベスト根絶も課題に掲げた「なくせじん肺全国キャラバン」が今年も行われ10月20日、21日に行われた東京集結行動には、約600人が参加し、厚労省、環境省など政府交渉、国会請願デモなどを繰り広げました。
 振動障害では、厚労省は新規認定などを抑制するため、FSBP%検査(局所冷却負荷指動脈血圧検査)の導入など検査指針の改定をもくろみましたが、建交労、全日本民医連の厚労省に対する働きかけや、導入の根拠とされている厚労省の検討会報告に産業衛生学会で多くの疑問や批判が出され10 ℃ 10 分法冷水浸漬手指皮膚温検査の判定基準がまとめられたことなどで、今日まで改定を許していません。
 じん肺、振動障害などの長期療養者の生活・療養補償の問題も検討が必要になっています。
 
 

未来をになう活動家の育成

 第4回労働安全衛生学校は6月6〜8日に開催され、87名の受講生が参加しました。職場巡視実習、公開セミナー「若者と労働と健康」など新企画も好評で成功しました。しかし修了証授与者(8単位中6単位以上)が36名で、1科目、2科目など部分参加の受講生が多いなど課題も残しました。
労働安全衛生をになう活動家づくりは、各労働組合、地方センターなどでも大きな課題となっていますが、計画的に活動家を養成するなど各組織での意識的なとりくみが求められています。
 また9月には「健康で安全に働くために」シリーズの2冊目として阿部眞雄理事の「快適職場のつくり方−イジメ、ストレス、メンタル不全をただす」(学習の友社)が発行されました。この本は阿部先生の全国センターの労安学校での講義や各地での講演が元になっており、いわば「いの健」運動の中で生まれたものです。労働組合の役割なども鮮明にしたわかりやすい書籍です。積極的な普及が望まれています。

 

いのちと健康を守る組織の強化

 (1)労働組合運動の中にいのちと健康を守る課題を位置づけよう
 
4月17日に全国センターは労働安全衛生第2回単産担当者会議を開きました。これには6単産、全労連本部などから17人が出席し、メンタルヘルス対策などで交流しました。単産との関係をさらに強化し全国センターを発展させていくことが求められています。
 「(1)労働安全衛生活動の推進」の項で述べたように、単産、労働組合のとりくみは大きく前進しました。しかしメンタルヘルス対策などは切実な課題となっており、労働組合が「働くもののいのちと健康を守る」ことを組織の重要課題として位置づけ、方針を持つこと、担当部署や担当者を配置すること、活動家養成にとりくむことなどは、ますます重要課題となっています。


 (2)「全県に地方センターを」のとりくみとブロックセミナーの開催
 @ 「全県に地方センターを」のとりくみ
  12月8〜9日、地方センター交流集会が行われました。これには39名が出席し、「5年以内にすべての都道府県に地方センターを」という問題提起がされ、活発に議論しました。その後、全労連、全日本民医連にこの課題での協力を求めるなどとりくみを進めてきました。今期の加入は東京の板橋センターのみでしたが、現在22都道府県に地方センターがあり、来年2月には茨城で結成されます。重点県を定め空白を克服し、全都道府県につくっていくことが求められています。

 A ブロックセミナーのとりくみ
  ブロックセミナーは、第7回働くもののいのちと健康を守る関東甲信越学習交流集会が2月9〜10日につくば市で開催され、151人が参加し成功しました。
  2008北海道セミナーは6月14日、札幌市で開催され98人が参加しました。
  第4回中国ブロックセミナーは、6月21日〜22日、鳥取で行われ194人が参加しました。来年は中国、四国合同で行うことになり、地方センターのない県からの参加も得て実行委員会が開催されています。
  「働くもののいのちと健康を守る第4回東北セミナーin岩手」は、10月4日(土)〜5日(日)に岩手県花巻温泉で行われ、85人が参加しました。
  「労災職業病九州セミナーin沖縄」は、11月29日〜30日、豊見城市立中央公民館などを会場に開催され、500名をこえる参加者で成功しました。
  いずれのブロックセミナーも過労自殺などの労災補償、メンタルヘルス対策などで学習し交流を深めていますが、空白県に地方センターの結成を促進する重要なとりくみとなっています。
  大阪センターのメイン共同事業として、第37回一泊学校から大阪労連、大阪民医連、民主法律家協会、大阪職対連の5団体が協賛団体になって実行委員会を設置し、働くもののいのちと健康を守る学習交流集会(第41回労災職業病一泊学校)が11月8〜9日に京都「ホテル本能寺会館」で行われ、2府7県153人が参加しました。

 (3)全国センターの強化
 前総会では、理事会や事務局の体制を強化するために、財政基盤の確立をはかることが確認されました。しかし会員を増やし、季刊誌「働くもののいのちと健康」や「全国センター通信」の飛躍的な拡大を進める方針は提起できませんでした。
 「全国センター通信」、季刊誌「働くもののいのちと健康」は職場、地域で役立つものとするため、内容を改善してきました。各地のとりくみや働くもののいのちと健康を守るとりくみに必要な理論、政府などの政策の分析、さらに政策的な提起など充実した内容になっています。「働くもののいのちと健康」は「ストップ パワーハラスメント」など特集の内容によっては、定期購読者以外から多くの注文が寄せられるようなりました。さらに読まれる機関紙誌となるよう努力し、職場・地域に拡大していくことが求められています。
 理事会は今期5回開催され、執行機関としての役割を果たしてきました。四役会議は6回開かれ、理事会の準備や緊急の対応などにあたってきました。
 山積する課題に事務局業務が追いつかない実態があり、事務局強化は緊急を要する課題となっています。

 (4)全国センター10周年記念事業
 全国センター結成10年の記念事業を行うため、検討してきました。全国センターの10年を総括し、今後どのような方向性を持って進んでいくのかなどの議論を進め、それにふさわしい行事などを検討してきましたが、具体化は新年度の課題となりました。


 W. 10年目を経過した「いの健」全国センターの課題

10年の成果と教訓

 1998年12月15日、「働くもののいのちと健康・権利を守り、人間が尊重され、安心して働ける職場、社会の建設を、過労死も労災職業病もない21世紀をめざし、多くの人びとと、多くの団体・地方組織と、そして多くの専門家と共に『働くもののいのちと健康を守る全国センター』は積極的に活動することを、ここに宣言します」(設立宣言)と全国センターは結成され、働く人びとのいのちと健康を守り今日まで奮闘してきました。
 そして過労死、過労自殺など被災者・遺族の救済を進め、職場、地域で健康と安全を守り、労災保険の民営化反対や労働安全衛生法の改悪に反対し、アスベスト対策、メンタルヘルス対策や活動家育成など積極的にとりくみ、地方センターがある県は22になりました。また労働安全衛生活動を積極的に進める労働組合が増えるなど、大きく前進してきました。
 第10回総会活動方針では「10年目を迎えた全国センターの活動の成果と教訓」として以下の6点を確認しましたが、この6点は私たちの前進を支えるものでした。

@ 労働組合、中小業者、農民、被災者などの運動団体、弁護士、研究者、医師・医療   機関などが共同し、働くもののいのちと健康を守る事業を進めてきた。
A 過労死、過労自殺など労災・職業病の被災者・遺族、アスベスト被害者の救済にとりくんできた。
B 被災者救済から、健康、安全を確保し過労死などの労災・職業病を予防する活動にとりくみを広げてきた。
C 働くもののいのちと健康に係わる制度をめぐり、政府などの動きに機敏に反応し、たたかってきた。 
D いのちと健康を守る活動家を養成してきた。
E 各地に地方センターが結成され、単産でも交流集会がもたれるなど主体的力量がアップした。
  この6点を基本に、10年の総括をさらに進める必要があります。


到達点と課題を明らかにしよう

 「はじめ」の項で述べたように、この10年は日本の支配層がなりふり構わず「働くものの権利」に対して攻撃をかけてきた10年でした。それに抗して労働戦線、民主勢力の一翼として私たちは果敢にたたかってきました。その到達点は各単産や地方センターなど加入団体の総括をふまえ、多くの人びとが参加して明らかにしていく必要があります。
 それを前提に、さらなる討議を呼びかけるたたき台として3点を提起します。
 第一は、じん肺では、予防措置をとらなかった企業、国に責任があるとたたかい続け、筑豊じん肺訴訟、トンネルじん肺訴訟等で国、企業の責任を認めさせ、さらに過労死、過労自殺のなど労災・職業病の補償を求め、被災者・遺族ともにいのちと健康を守る事業主や行政の責任を問うてきたたたかいは、肝炎訴訟や原爆症訴訟と同じように健康、いのちを守る国や大企業などの社会的責任を追及し、「健康は『自己責任』で守れ」とする国や新自由主義者に痛打を与えました。このたたかいはアスベストのたたかいなどに引きつがれ、さらに大きく前進しようとしていますが、全国センターはこれに寄与してきました。
 第二に、全国センターが対政府要求をまとめ運動のセンターの役割を果たすまで発展してきたことです。労働安全衛生の推進、被災者救済、活動家育成などの事業とともに、働くものの現状、政府・財界の政策などを分析することから、要求をまとめ、運動を組織するまで発展してきました。アスベスト対策や労災不服審査改悪反対では、運動のセンターの役割を果たし、成果も獲得してきました。多くの団体と連携しながら、その役割をさらに果たすことが求められています。
 第三に今日の情勢から見て、さらに幅広い協力共同を追求することが重要になっていることです。不安定雇用労働者など、地域や事業所を超えて働く労働者や失業者が増大しています。農民や中小零細業者を含め多くの「働く人びと」を対象にして、今日の情勢にふさわしく労働組合に依拠しつつ協力・共同の輪を広げることが求められています。



X. ディーセント・ワークをめざし協力・共同の輪を広げよう−今後1年間の方針

 アメリカに端を発する金融危機、経済不況を口実に、首切りや低賃金、長時間・過密労働がさらに押しつけられようとしています。しかし規制緩和や「自己責任」の強要など新自由主義的な政策が、「格差社会」と言われる矛盾を作り出しました。同じ間違いを繰り返してはなりません。社会保障、労働者保護法制、親の負担を少なくする教育制度の拡充などで、弱い立場の国民を守ってこそ不況など経済危機に強い社会になります。金融危機がそのまま国民生活の危機となるようでは、社会は存続できません。世界金融破綻、経済不況を国民、働くものの負担で解決することは許されません。
 メンタルヘルス不全など働くものの健康破壊を予防するためには、ディーセント・ワークの実現が重要課題です。貧困や長時間労働、過重労働をなくすことを求めて、あらゆる勢力と手を結びたたかうことが今日ほど重要になっている時はありません。私たちは、健康や安全を守ることが困難で労働組合に属さない不安定雇用労働者、青年らも視野に入れ、幅広い層を結集していく努力が求められています。

職場、地域で働くもののいのちと健康を守る活動をさらに前進させよう
 (1)職場で健康、安全を守る活動の推進
 メンタルヘルス対策、労働安全衛生活動の推進は最重要課題です。第3回健康で安全に働くための交流集会の問題提起は、メンタルヘルス不全者を出さない職場、地域づくりのために、@学習・啓蒙活動、A「8時間労働制」の確保、B働きやすい職場づくり、C職場の健康度の把握、D産業医、カウンセラーなどの専門家との協力・連携、E労安活動の活性化、F民主的職場風土をつくり仲間を大事にする労組・組織の役割の発揮、の7点を提起し、事業者へ安全配慮義務、健康保持責任を求めていくことの重要性を強調しました。
 職場では労働組合の役割がとりわけ重要です。すべての職場でこの問題提起を学び、労働組合がそれぞれの職場で方針を持ち、労使の重要な共通課題とし予防から職場復帰まで具体的な方策を議論していくこと、ノー残業デーや会社主催の職員研修会の開催や外部研修会への職員の派遣など、できることから要求し具体化することが重要です。化学一般の「心の病に関する予防協約書」締結のとりくみに学び、労働組合の最重要課題に位置づけましょう。
 ハラスメント問題は相談事例も増え、心の病気の引き金になっており、対策を強める必要があります。全国センターとしては対策をさらに検討するとともに、国にハラスメント予防指針を定めること、精神障害判断指針(労災認定基準)に位置づけることなどを要求していきます。またメンタル不全者の職場復帰についてもそのあり方、国や事業主への要求を検討します。
 この10年の働き方の変化が働くものの健康破壊を進めましたが、新たな経済危機のもと、働き方がさらに悪い方向に変わっていき、新たな健康破壊が起きる可能性があります。働き方の変化と健康破壊を機敏にとらえ、警鐘をならす活動が求められています。派遣労働者などで労働災害が増えています。さらに化学物質による健康被害もあります。労働条件、労働環境に目を配った労働安全衛生活動を推進していきましょう。
 全国センターは、第4回健康で安全に働くための交流集会を準備していきます。また安全週間、衛生週間に呼びかけを発表し、全労連に協力して夜勤労働シンポジウムを開催するなど、とりくみを強めていきます。


 (2)不安定雇用者労働者の健康、安全問題
 不安定雇用労働者や失業者が増えており、派遣やダブルワーカーなど複数の職場で働く労働者が増えています。さらに「実習生」、「研修生」と言う名の外国人労働者の問題もクローズ・アップされています。これらの人びとの多くは労働組合に属さず、メンタル不全などの病気やケガ、病気やケガを理由にした解雇、無収入による生活困難など、1人の労働者に問題が重層的にあらわれます。その相談の解決は、1つの窓口だけではできません。最初の相談窓口が地方センターである場合が多いのですが、県労連やローカルユニオン、青年ユニオン、医療機関や弁護士らとこれまで以上に連携してとりくみを強める必要があります。全労連に非正規雇用労働者センターができましたが、この分野の労働運動は重要性を増しています。
 全国センターは非正規雇用労働者センターに協力して「青年の労働と健康調査」にとりくみましたが、調査結果を分析し青年や非正規雇用労働者が健康で安全に働くための政策を検討します。

 (3)特定健診・保健指導等への対応
 自治体の基本健診がなくなり、国保や健康保険など保険者によるメタボリックシンドロームを中心とした健診となりましたが、大幅な後退、混乱が見られます。国民の健康を守る国や行政、企業の責任を明らかにした制度の確立が求められています。「地域・職域丸ごと健康づくり」のためには、どのような健診や保健指導が望ましいのか、各地の実践を交流しながら、政策的検討を進めます。
 労安法にもとづく事業所健診は、職業病の早期発見や労働条件、労働環境を改善するためのものです。「疾病の自己責任論」を基本的な柱とする特定健診・保健指導で事業所健診の内容が後退しないよう注意する必要があります。全国センターは50人未満の事業所も含め、事業所健診の調査を行い、課題を明らかにしていきます。

 (4)中小零細企業等での労安活動
 中小零細企業、小規模事業所での労働安全衛生活動を活発にするための検討を行います。さらに「民商健診」「土建組合健診」など、各地の優れたとりくみを交流し普及していくなどこの分野のとりくみを推進します。
 自公政権の農業切りすて政策の下、農民のいのちと健康を守る課題は重要です。千葉などの「農民連健診」などに学び、とりくみを広げていきましょう。


被災者救済のとりくみ

 労働災害・職業病の被災者・遺族の救済は、精神疾患や非正規雇用労働者の労働災害・職業病が増えている現状の下では、職場や地域を変える働くもののいのちと健康を守る運動の一環として、さらにとりくみを強めなければなりません。「労災隠し」は後をたたず、業務に起因する「心の病」が急増していますが、労災申請はごくわずかです。職場の業務による疾患やケガを、それが小さいものであっても見過ごさない立場で、とりくみを強める必要があります。
 労働局など労働行政との関係では、要求や課題を行政に持ち込み適切に調査させることなど恒常的な働きかけが重要です。さらに都道府県労働局のブロック機関化、労働基準監督署のさらなる再編統合などがもくろまれていますが、人員削減に反対し働くもの本位の労働行政をめざす全労働との協力・共同を進めることも重要です。
 全国センターは精神障害判断指針(認定基準)の改善とともに、脳心臓疾患等についても要求をまとめ、認定基準の改善を要求していきます。
 さらに継続審議になっている労災不服審査制度の改悪に反対し、署名運動や各党要請、国会行動など運動を強めます。内閣が総辞職すれば行政不服審査法「改正」案、労働保険審査会法、地方公務員災害補償法「改正案」は廃案になりますが、そうなれば総選挙後の情勢を考慮し、適切に運動を展開します。


アスベスト対策の充実を

 今後被害の顕在化が予想されるアスベスト問題は、ますます重要な課題です。引き続きアスベスト被害の掘り起こしに力を注ぎ、被害者の救済に力を注ぎます。また首都圏建設アスベスト訴訟、泉南国賠訴訟、尼崎アスベスト訴訟など、裁判闘争への支援をしていきます。全国センター版のアスベスト健康管理手帳を普及し、医療機関と協力してばく露者の健康管理を進めます。さらに今後の被害を予防するために、建築物の解体などでの飛散防止の徹底を国、自治体に要求していきましょう。
 情勢の項で述べたように、国は石綿救済法の指定疾病(現在は中皮腫、肺がんのみ)や認定基準の見直しを進めています。法改正を勝ちとった力で石綿肺なども指定疾病に入れさせるなど、早急に運動を強めることが求められています。労災補償、健康管理制度などとあわせ、国と石綿関連大企業の責任で新たな基金制度をつくり、総合的なアスベスト対策をとらせる運動を強めます。

労働安全衛生の活動家育成

 メンタルヘルス対策など労働安全衛生活動に力を入れることが、今ほど求められている時はありません。そのためには各単産など労働組合、団体は自然発生に任せるのではなく、意識的に計画的に労働安全衛生の活動家づくりを進めなければなりません。今後の労働組合運動にとって労働安全衛生は重要課題ですし、労働組合の活動家をつくる上でもこの分野での教育・学習は必要です。
 また労災申請や労働・健康問題で、医師や弁護士と連携して相談を受けられる相談者を数多く育成する必要があります。
 全国センターは加入団体で活動家育成のとりくみが進むよう援助するとともに、第5回労働安全衛生学校を開催します。各加入団体は希望者をこの学校に送ると言うことではなく、方針を持って受講生を組織することが望まれます。全国センターはさらに学校のあり方を検討し、内容を充実させます。

組織の拡大、強化

 (1)労働組合運動の中にいのちと健康を守る課題を位置づけよう
 年ごとに労働組合運動でいのち、健康を守る課題の位置づけは高まっています。しかし青年層を中心に心の病気など健康破壊も著しく進んでいます。「健康で安全に働くこと」「働きやすい職場」は働くものの根源的な要求であり、そのためのとりくみやたたかいは個別課題ではなく、すべてに優先するものです。幹部が先頭に立ち労働組合が労働安全衛生に力を入れ民主的で働きやすい職場づくりを進めること、このことが最大のメンタルヘルス対策です。さらに位置づけを高め、各職場で労安活動が進むよう方針化しましょう。
 全国センターは引き続き単産担当者会議を開催するなど労働組合の担当者の交流を盛んにし、今後の対策などを検討していきます。


 (2)全都道府県に地方センターを
5年以内にすべての都道府県に地方センターを確立することをめざし、全労連、民医連など中央団体との協議や各ブロックで協議を進め、ブロック担当理事会議などでテンポ、重点県などを定め具体的に設立を進めます。


 (3)季刊「働くもののいのちと健康」や「全国センター通信」の飛躍的な拡大
 季刊「働くもののいのちと健康」や「全国センター通信」は、労安活動の推進や被災者救済の運動にとってなくてはならいものとなっています。職場や地域でさらに活用されるよう内容の改善をはかり、1職場1部など具体的な目標を提起し拡大運動を進めます。

 (4)理事会機能、事務局体制の強化
 全国センターはアスベスト問題や労災不服審査の中央での1段階化反対の課題などでは、全国センターは運動のセンターとしての役割を果たし、その機能を強化することが求められています。またメンタルヘルス対策など職場や地域での全国のとりくみを推進するための全国センターの役割も大きくなっています。
 このような中、理事会の執行機能を高め、事務局機能を強化することは重要課題となっています。
 団体、個人の会員や増やし、季刊「働くもののいのちと健康」「全国センター通信」を拡大して財政基盤を確立していきます。



10周年記念事業について

 10年目を迎える「いの健」が今日の情勢の下で何をめざすのか、さらに発展するためには何が必要か、私たちの要求と運動のあり方など、各加入団体の総括や方針をふまえ、議論すべき時期です。この主旨で、シンポジウムの開催、記念誌の発行などを検討し10周年記念事業を行います。