第9回総会決定集

第9回総会の概要

1.総会の概要

 働くもののいのちと健康を守る全国センター第9回総会が、12月8日に平和と労働センター・全労連会館で開かれた。代議員・役員の総会構成員定数は251人で、77人(代議員48人、役員29人)が出席し、95人の代議員から委任状が提出され、合計172人であり、過半数を超え総会は成立した。新年度活動方針案、2006年度決算及び会計監査報告、2006年度決算繰越金処分案および2007年度予算案、新役員選出案のすべての議案を満場一致で採択し、新役員(別項)を選出した。また「憲法改悪を阻止し、働くもののいのちと健康を守ろう」の特別決議を行った。
 第3回働くもののいのちと健康を守る全国センター賞は、南雲與志郎医師(せとメンタルクリニック院長)と九州社会医学研究所に贈られた。

2.総会役員

 総会議長は建交労・神田豊和氏、大阪センター・村田敏史氏がつとめた。資格審査委員は生協労連・鈴木蔵人氏、全教・水落貴司氏、九州セミナー・青木珠代氏がつとめた。議事運営委員は、全教・蟹沢昭三氏、千葉センター鮫島敏昭氏がつとめた。

3.主な議事と発言(くわしい内容は「全国センター通信」91号参照)

 開会あいさつを宮垣忠副理事長が行った。福地保馬理事長が「安部内閣は憲法、教育基本法の改悪を急ぐ危ない内閣。大企業だけが大もうけする格差社会が進行している」、「かつて日本人の平均寿命の長さを調査した国際機関が、格差の少なさを長寿の要因にあげたことがあるが、すでに男子の平均寿命は減少している」と指摘。「いま体だけでなく心の破壊が進行している。ホワイトカラー・エグゼンプションなど労働法制のさらなる改悪を許さない闘いと、健康な職場をつくる運動を一体で進めよう」と冒頭のあいさつを行った。
 来賓として全国じん肺弁護団連絡会の山下登志夫幹事長が、アスベスト、じん肺問題で国の責任を問うたたかいの重要性にふれ、あいさつした。韓国の源進職業病管理財団・朴賢緒理事長、全国建設労働組合総連合・伊藤義昭委員長、小池晃参議院議員(日本共産党)、高橋千鶴子衆議院議員(日本共産党)、ILO駐日事務所・長谷川眞一代表、労働科学研究所・前原直樹所長、アスベスト被害からいのちと健康を守る尼崎の会・船越正信会長から連帯のメッセージが寄せられ紹介された。
 今中正夫事務局長が新年度活動方針案、決算報告、予算案等の議案を提案し、貝之瀬信夫会計監査が2006年度会計監査報告を行った。新役員の提案を田村昭彦副理事長が行った。代議員を中心に16人の方が発言した。国と石綿関連大企業の責任を問うアスベスト健康被害者のたたかい、過労死等の労災認定闘争、いのちと健康を守る地方センターの様々なとりくみ、中小業者の健康問題、振動障害の認定基準検査指針改悪反対のとりくみなど、活動方針案を補強する積極的な意見が述べられた。
 事務局長の総括答弁を受け、すべての議案は満場一致で採択され、新年度役員を選出し、「憲法改悪を阻止し、働くもののいのちと健康を守ろう」の特別決議案を冨田素實江理事が提案し決議した。新役員を福地理事長が紹介し、退任理事を代表して北口修三理事があいさつした。閉会あいさつを長谷川吉則理事長代行が行い、すべての議事を終了した。

第9回総会活動方針

はじめに  

 前総会より1年たちました。第8回総会以降、全国センターはアスベスト問題にとりくみ、各ブロックセミナーや第2回労働安全衛生学校を成功させ、過労自殺など精神障害の業務上・外判断指針改正案をまとめ厚労省に申し入れ、組織強化委員会を設置し組織・財政強化の方向を明らかにするなど奮闘してきました。さらに10月には「働くもののいのちと健康を守る高知県センター」が結成されるなど、全国各地で働くもののいのちと健康を守る活動が前進しました。
 今総会は@1年間の活動を総括し、働くもののいのちと健康をめぐる情勢、とりわけ政府、財界の教育基本法改悪、憲法改悪を推進しながら労働者保護法制を骨抜きにする策動を許さない立場から情勢を分析し、全国センターの強化なども含めいのちと健康を守るとりくみをさらに大きくするための今後1年間の活動方針を決定し、B新しい役員を選出し、B決算を承認し予算を決定しました。


T.第8回総会以降の活動のまとめ
 第8回総会活動方針は、@アスベスト被害者救済と予防対策の拡充、Aメンタルヘルス対策など健康で安全な職場、地域づくり、B過労死・過労自殺、じん肺など労(公)災被災者救済と制度改善、C労働安全衛生法など労働法制改悪反対のたたかい、D労働安全衛生の活動家養成、EILO総会対策など国際活動、F組織強化の7つの重点課題を定めましたが、この1年、全国センターはこれらの課題を積極的に推進してきました。

1.アスベスト被害者救済と予防対策の拡充
 昨年11月29日に政府は「石綿による健康被害の救済に関する法律案大綱」(以下石綿救済法)を発表しました。内容はきわめて低い給付水準であり、しかも対象疾病を中皮腫と肺がんだけに限定するきわめて不十分な内容でした。全国センターは新法の給付水準は少なくとも労災保険や公害健康被害補償法なみの補償とすることなどを求めて、12月6日に環境省交渉を行い、第8回総会でも「すべての被害者が労災なみの補償で救済される石綿新法を−国、関連大企業の責任で総合的なアスベスト被害対策を確立せよ−」の特別決議を行い、福地理事長を本部長とするアスベスト対策本部を継続し、とりくみを強めてきました。

 1)石綿救済法に向けてのとりくみ
 全国センターは1月20日、2月1日の2回にわたり国会行動を行い、衆議院、参議院の環境委員らの議員に被災者への十分な補償、抜本的に予防対策を強化することを要請しました。また石綿対策全国連絡会は100万署名を呼びかけましたが、全国センターも同連絡会と署名項目を同じにしてとりくみ、岩田副理事長が同連絡会の集会で連帯のあいさつを行いました。全国センターは34,000筆の署名を集約しました。
 2月3日には石綿救済法が成立しましたが、全国センターはただちに「国の責任を明らかにしたアスベスト被災者の完全救済と被害予防対策の拡充を−アスベスト新法の成立にあたって−」の事務局長談話を発表しました。談話は、@新法では国の責任が不明確であること、A給付額が低いなどきわめて限定的な救済給付であること、B対象疾患も中皮腫と肺がんのみで限定的であること、C公費のよる健康診断など健康管理体制が不十分、Dアスベスト含有製品の廃棄物に対する対策がない、と石綿新法を批判し全国いっせいアスベスト110番を呼びかけました。その後明らかになった認定基準は、中皮腫については病理組織検査などきわめて厳格な診断を要求し、肺がんでは胸膜肥厚と石綿肺の両方の所見があるものとするなど、労災の認定基準よりきびしいものでした。これらの認定基準の問題点については環境省のパブリックコメントで批判的な文書を提出し、各加盟組織にも意見を出すよう呼びかけました。

 2)第1回全国いっせいアスベスト110番
 4月1日に行われた第1回全国いっせいアスベスト健康被害110番は、@石綿救済法による新制度、労災保険による健康被害救済に関する相談を受け、被害者の救済を具体的にすすめる、A救済制度の不十分さを明らかにし、健康管理対策や被害予防策をもふくめた抜本的なアスベスト対策、「石綿法」の制定を求めるたたかいに寄与することを目的に行われました。北は旭川市から南は鹿児島まで全国31カ所で行われ、大阪で40件、北海道(2カ所)で31件、尼崎市で21件など合計231件の相談が寄せられました。  
相談内容は労災申請が67件(うち労災時効が22件)、健康管理・医療機関に関する相談57件、石綿救済法についての相談が32件などでした。発症病名は中皮腫35件、肺がん38件、胸膜肥厚13件などです。石綿救済法の施行を受けての相談活動でしたが、職業性ばく露による健康被害とその対策を求める相談が多数を占めました。新法に関する相談が労災にくらべて少なかったのは、認定基準がきびしいことや情報が十分伝わっていないことなどが原因でした。具体的な内容では「中皮腫で昨年末に弟が死亡。労災の可能性もあるが、ばく露歴が不明。会社も証明できないといっている」(千葉)、「CT検査でアスベストの影響が出ていると言われ、手帳の申請に労働局に行ったが事業主だから無理といわれた」(福井)など深刻な実態が明らかになりました。全国各地で労働組合と医療機関、弁護士など各分野の人々がアスベスト問題で連携し、相談体制を作り上げたことは、今後のとりくみにつながる大きな成果でした。


 3)国と石綿関連大企業の責任をいかに問うか−アスベスト健康被害シンポジウムと対政府交渉
 全国いっせいアスベスト110番や、大阪・泉南石綿訴訟の提訴など全国各地のとりくみの前進の中で、7月15日に全国センターは、「国と石綿関連大企業の責任をいかに問うか−アスベスト健康被害シンポジウム」を開催しました。被災者や弁護士、医療関係者、地方センター、労働組合など89人が参加しNHKで報道されました。
 シンポジウムでは石綿救済法では救済されない泉南石綿訴訟の原告団・弁護団やトンネルじん肺訴訟弁護団などから、国の責任を問う裁判の意義が訴えられ、全日本民医連からは石綿救済法の医学的認定基準の問題点、東京土建、静岡センターからは被災者の掘り起こしや労災認定のとりくみなどが報告されました。フロアからも、千葉で県や市町村への要請で公的な医療体制の充実や解体・検査費用の助成を実現したことなど、活発に意見が出されました。
シンポジウムは、泉南石綿訴訟につづき国と加害企業の責任を問う運動をさらに積極的に進めること、被災者掘り起こしの活動として当面10月7日に第2回全国いっせいアスベスト110番を行うことなどを確認しました。
 なおシンポジウムの前日の7月14日、全国センターは、厚生労働省と環境省と交渉をもちました。@認定基準がきびしいため、認定が進んでいない。石綿救済法、労災保険の認定基準をあらためること、A遺族給付の申請期間(法施行後3年間)や労災補償の時効(5年)の緩和措置をとること、などを要求しました。
 また政府は石綿救済法の事業主負担についての考え方を8月に明らかにしました。11月に政令案を示し国民に意見を求めました(パブリックコメント)。それによると来年度からすべての労災保険適用事業者から73.8億を集めるとしていますが、そのうちクボタやニチアスなど特別に負担を求められる企業(特別事業者)はわずか4社で、その負担総額は3.38億円です。全国センターは国と石綿関連大企業の負担による十分な補償制度を求める立場から、特別事業者をさらに増やすこと、1社あたりの拠出金も増やし、石綿関連大企業の負担をさらに増やすよう求め、政府に意見を出すとともに、加盟団体に意見応募を呼びかけました。

 4)第2回全国いっせいアスベスト110番
 10月7日に「全国いっせいでアスベスト健康被害110番」を行うことを呼びかけ、19都道府県25市で行われ、138件の相談が寄せられました。最高は大阪の40件で、次いで福岡の20件、北海道19件、岡山の10件などでした。
 相談の内容は、労災申請(時効も含む)38件、石綿救済法12件、健康不安や健康管理26、医療機関の紹介13件などでした。第1回同様、石綿新法にかかわる相談が少ないのが特徴ですが、政府の周知徹底不足、給付額の低さ、申請してもなかなか認定されない実態などが影響しています。特徴的な相談は、「病院からは診断書を持って行けば労災になるといわれたが、労基署では『もっと悪くならないと対象にならない』といわれた。職歴もはっきりせず心配」(福井)、「火力発電所で56年前以上にばく露し中皮腫と診断された」(尼崎)などでした。これらの深刻な事例は潜在患者の広がりも示しており、さらに積極的な被災者掘り起こしの活動が求められていることを明らかにしました。


 5)各団体、各地のとりくみ
 各地では全国いっせいアスベスト110番のとりくみだけでなく、電話相談などによる被災者掘り起こし、救済、裁判闘争の準備などが進んでいます。各地で学習会や相談会、自治体交渉などが行われ、北海道、宮城、千葉、埼玉、山梨、静岡、福井、大阪、兵庫、奈良、岡山、広島、福岡などでは、道府県段階での対策センターが活発に活動しています。福岡や尼崎では被災者の組織も作られ、労災認定などで具体的な被災者の救済もすすみました。  職場では新日鉄八幡・アスベスト問題を考える会など、退職者とともに活動する組織が作られ、とりくみが前進しています。さらに大阪の国家賠償を求めた大阪・泉南石綿訴訟に続き、香川のエタニットパイプ関係の被災者(本人、遺族含めて57名の原告)が、企業補償を求めて立ち上がりました。さらに首都圏の土建組合、尼崎の被災者などが国やアスベスト製造企業等の責任を問う裁判を提訴するため協議を進めています。
 中央団体でも建交労、全商連、全日本民医連、国労、全港湾などで交流集会や政府交渉などのとりくみが行われました。


2.メンタルヘルス対策など健康で安全な職場、地域づくり
 改定された労働安全衛生法(以下、労安法)が4月1日から実施されました。全国センターは、「新たな指針、通達などの活用を−職場でのたたかいが求められている−改定労働安全衛生法の実施にあたって」の四役会議アピールを出し、改定労安法は多くの問題点はあるものの「新たな指針、通達などでは私たちのたたかいも反映して積極的に活用すべき内容も含まれています」とし、メンタルヘルス対策など職場での労働安全衛生活動の強化を呼びかけました。
 各加盟団体ではメンタルヘルス対策など健康で安全な職場づくりは焦眉の課題になっています。中央団体では生協労連や自治労連、化学一般、医労連、全日本民医連などでこの分野のとりくみの交流集会や学習会が行われました。全教では各地で労働安全衛生委員会の設置などをとりくみみ前進させています。全商連は、例年のように共済会の入院見舞金、死亡弔慰金、健康診断結果から中小業者の健康破壊の実態をまとめ、健康診断の受診など健康を守るとりくみの強化を呼びかけました。地方センターでも「働き方を見直す京都7月集会」や労働安全衛生やメンタルヘルスの学習会、研究会などが持たれました。
 全国センターは今期は全国的な交流集会などは持ちませんでしたが、第2回労安学校や各ブロックセミナーでは主要なテーマとして取り上げられました。各団体や地方センターのとりくみをさらに促進するため、来期には第2回健康で安全に働くための交流集会の開催など、とりくみの検討が求められています。


3.過労死・過労自殺、じん肺など労(公)災被災者救済と制度改善

 1)労働保険審査会へのとりくみ
 毎年、数多くの未処理案件を繰り越し、なお救済率もきわめて低い労働保険審査会の審査の改善をもとめて、今期も労働保険審査会交渉などにとりくみました。
 8月2日には、迅速な審査と被災者の権利救済を求めて労働保険審査会交渉を行いました。平成17年度は613件と裁決件数は前進しましたが、1,193件も繰り越していること、救済(取り消し)率は4.7%にすぎないことなどを追及しました。「公開審理3か月前までに事件プリントの送付という要求は受け止めたい」など、前進もありましたが、事前に入手した裁決書の素案づくりが旧労働省OBなどにアウトソーシングされている実態を示し見解を求めましたが、担当官はこたえることができませんでした。
 この問題で9月13日、厚労省労働保険審査会室長からレクチュアを受ける機会を持ちました。そこで約6割の事案が厚労省OBらに委嘱されている実態が明らかになりました。厚労省は「いいこととは思っていない。本来は正規職員がやるべき。しかし、公務員削減のあおりで、増員が認められない」などとしましたが、全国センターとしては「正職員以外は守秘義務もないので問題」と追及しました。
 いずれにせよ、労働保険審査会の機能は麻痺していると言わざるを得ず、「簡易迅速」「権利救済」の視点から根本的に労働保険審査会のあり方を見直す必要があります。総務省は「行政不服審査法についての委託研究報告書」を発表しました。それによると、「行政不服審査制度の運用状況について、処理期間の長さや認容率において裁判に比べても簡易迅速・権利救済が実現しているとは言いがたい」としていること、「申立ての種類及び審理の基本構造について、処分庁を一方の当事者と位置づけ申立人が対峙させ、処分担当者とは別な立場にある者が判断する対審的な構造を導入」を提言していることなど、評価できる内容を含んでいます。過労死弁護団は基本的にこれらの方向性に賛成する意見書を提出しましたが、全国センターとして労働保険審査会、再審査制度のあり方を検討して要求をまとめ、運動を進めることが求められています。

 2)精神障害業務上外判断指針改善のとりくみ
 前期から課題になっていた過労自殺の認定基準の改善要求について、10月4日、「精神障害に係る業務上外の判断指針の検討会」を開催しました。判断指針は、ライフイベント(事件的出来事)による急性ストレスに重点を置き、長期間の日常生活で生じる慢性ストレスなどを十分評価しないなど発症要因の概念に問題点がありますが、これをあらため、第一に業務による「過重ストレス」(精神障害の発症要因となりうる過重な慢性ストレス及び急性ストレス)によって発症した精神障害、自殺を取り扱うこと、第2に過重ストレスは同種労働者との比較ではなく、当該労働者が置かれた立場や状況を十分斟酌して適正にストレスの強度を客観的に評価すること、第3に精神障害を発症後引き続き業務に従事し慢性・急性のストレスにより症状を憎悪させた場合(自殺した場合も含む)、業務に起因するものとして取り扱うこと、などを基本とした改定要求案が確認されました。
 各団体での討議もお願いして第4回理事会で要求を確認し、11月16日に厚労省に申し入れを行いました。全国センターは名古屋高裁でのトヨタ自動車事件判決などに従い、判断指針を改正するよう求めましたが、厚労省は「判断指針の改定作業は行っていない」とし、私たちの要求に背を向けています。私たちの判断指針改正案の実現に向け、さらに運動を強化することが求められています。


 3)公務災害認定闘争の前進
 全国センター公務部会主催で3月11〜12日、「第2回公務災害認定闘争全国交流集会」が愛知・三河三谷で開かれました。自治労連や全教、国公労連、地方センター、弁護士、基金支部参与、被災者・遺族など57人が参加し、頸腕・腰痛、過労死・過労自殺などをめぐる公務災害認定の問題点や基金制度の問題点、支部審査会参与の連携について深めました。
 自治労連と全教が共同で4月20日に地方公務員災害補償基金本部(基金本部)と「基金制度の改善」を求める交渉を行いました。事案処理の遅延を是正するため、疲労性疾病事案の基金支部段階での判断を徹底し、標準処理時間を1年以内にすることを求めましたが、基金本部は「頸肩腕・腰痛は、平成17年6月より処理の迅速化を図るため本部協議案件対象から除外した」とこたえるなど、一定の前進がありました。
 公務部会では「公務災害認定闘争の手引き」が作成されました。公務関係の労働組合での普及がのぞまれています。

 4)過労死・過労自殺等の被災者救済のとりくみ
 この1年間、過労死・過労自殺、腰痛など係争し最終的に勝利し決着した事案は、全国センター通信に寄せられたものが中心ですが、労(公)災認定で京都5件、大阪、北海道、愛知がそれぞれ2件など合計16件で、民事訴訟では大阪3件、京都、山梨の各1件でした。もちろんこれ以外にも各地方センター、労働組合、弁護士、医師、研究者らの奮闘で多くの被災者の救済が大きく進みました。
 過労死、過労自殺の認定基準の不十分さから行政訴訟も数多くたたかわれましたが、日本航空岩本過労障害裁判の高裁での勝利、北海道北洋銀行の過労死裁判の一審勝利、社会保険庁・横森訴訟の国家賠償和解、金谷過労自殺裁判の福岡地裁での勝利、「最も脆弱な者を基準とすべき」との判決を前進させた中電過労自殺裁判の名古屋地裁での勝利、京都の東條先生過労死事案の支部審査会での公務災害認定、大阪では尾形過労死事案の労働保険審査会で認定、中森過労死事案が大阪高裁で逆転勝訴、藤本過労自殺事案が労働者補償保険審査官などで認定を勝ち取っています。
 認定基準の問題点を明らかにし、それをくつがえすものとして重要です。
 腰痛、化学物質などでは、東京板橋区の給食調理員のぎっくり腰勝訴や、埼玉でのグルタルアルデヒドの労災認定、京都のVDT障害労災認定、神奈川の頸椎ヘルニア逆転勝訴など、とりくみが前進しました。
 しかし住友軽金属に遺族への保険金引き渡しを求めた団体定期保険裁判では、最高裁は4月に不当な判決を行いました。原告団・弁護団は、「団体定期保険の目的は遺族補償。従業員の生命を取引材料にするのは許されない」と抗議声明を発表しました。また9月には頸肩腕障害、腰痛の公務上の認定を求めて長年闘われてきた神奈川のさざんか学園健康裁判で、最高裁は3年もたってから不当にも上告不受理の決定を行いました。
 北海道、宮城、長野、山梨、静岡、京都、大阪、奈良、岡山、山口の10の地方センターから68例が寄せられた全国センターの労災等係争事案調査では、過労自殺がもっとも多く20件で、脳血管疾患14件(うち死亡は9件)、虚血性心疾患は11件(すべて死亡事案)で、68件中40件が過労死・過労自殺です。現在の係争場面は労働保険審査会が16、地方裁判所が10、労働基準監督署が10、審査官が7などでした。民事損害賠償の訴訟は7件でした。被災者の業種は製造業が11、教育、運輸がそれぞれ8、医療、建設がそれぞれ5件などでした。
 この調査では過労自殺など過重労働による疾患で係争事例になっているものが多いこと、労働保険審査会など審査制度の問題点などが浮かび上がりつつあります。この調査を経年的に行い、社会的にアピールしていくこと、政策と要求をまとめ厚労省などに働きかけることなどが課題となっています。

 5)じん肺根絶、振動障害の検査指針改定にむけたたたかい
 「あやまれ、つぐなえ、なくせじん肺」を合い言葉に、たたかいが前進しています。新北海道石炭じん肺訴訟、西日本石炭じん肺訴訟も和解がすすみ、完全解決に向け運動が前進しています。またトンネルじん肺根絶訴訟では、東京、熊本、仙台の地裁で国の責任を断罪する画期的な判決を勝ち取りました。10月2日から20日まで、アスベストの被害者救済、根絶の課題も掲げ、「なくせじん肺全国キャラバン」がとりくみまれました。10月20日の決起集会には1,250人が集まり、じん肺・アスベスト被害の根絶を求め国会にデモ行進を行いました。
 また北海道では、9月に約900人を対象にした太平洋炭鉱離職者の健康調査が行われました。多くの離職者が難聴、腰痛、せき・たん等の症状を訴えていますが、健康診断など継続したとりくみが続けられていますが、じん肺の労災認定患者は毎年1,000人近くでており、引き続き重視すべき課題です。
 厚労省は振動障害の認定基準である307号通達の検査指針を変える予定ですが、科学的根拠のない検査項目・判断基準で患者を切り捨てるなと、建交労、全日本民医連が厚労省に働きかけました。

4.労働法制改悪反対のたたかい
 改定された労安法にもとづく「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」について、パブリックコメントにこたえて昨年12月20日付で厚生労働大臣に意見書を提出しました。改定労安法は、時間外労働が月100時間を超えるものに、本人の申し出により医師の面接指導を義務づける不当なものでしたが、「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」に示された過重労働対策を下まわることなく、「面接指導の要件には2か月から6か月間を平均して1か月当たりの時間外労働時間数が80時間を超える者を加えるとともに、週40時間を超えて1か月45時間以上の時間外労働を行わせた場合についても、産業医等の助言指導を受けることを明確に規定すること」などを求めました。また前述のように、4月から実施された改定労安法について、四役声明を出し、今後のとりくみの方向を明らかにしました
 その後、政府は労働契約法、「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」(ホワイトカラーエグゼンプション)の導入、行政改革推進法で明記された労災福祉事業の見直しなどを打ち出してきていますが、全国センターは労働法制中央連絡会に加入し、新日本婦人の会、自由法曹団、全労連などの仲間とともにとりくみを進めてきました。

5.労働安全衛生の活動家養成
 1)第2回労働安全衛生中央学校の成功
  第2回労働安全衛生中央学校は、6月9日から11日の3日間、東京で開かれました。参加者は受講者107人、講師などを含め125人で大きな成果をおさめました。第2回目は、@職場に於ける安全衛生活動をすすめる上での基礎的な知識を身につけること、A現在職場で問題になっている労働関連疾患対策(過重労働対策、筋骨格系障害、メンタル不全、アスベスト健康障害)の発症原因と予防を学ぶことをねらいとしました。「現代の労働と労働安全衛生問題」(第1講義)、「安全衛生活動の実際」(第2講義)、「リスクアセスメント入門」(第3講義)、「職場のゆがみを正す」(第5講義)など、労働関連疾患の学習は、職場での労働安全衛生活動を実践する上で大いに役立つ内容でした。受講生からは「まさに眼からウロコ。これからの労働組合活動はこれだ!と思いました」、講師陣からも「来年も引き受けたい」など、積極的な感想が寄せられています。
 運営委員会は来年の第3回目も2泊3日で行うこと、これまでの講義をもとにブックレットを発行することを計画しています。


 2)各ブロックセミナーの成功
 中国、東北、関東甲信越、近畿、九州で開催されたブロックセミナーも大きな成果をおさめました。今年度はいくつかのセミナーに四役、理事らが全国センターから参加しました。
 第2回いのちと健康を守る中国ブロックセミナーは6月17〜18日、岡山県倉敷市で開かれ、中国5県から178人が参加しました。医師、弁護士、労組、全国センター理事らによる「アスベスト問題をどうするか」のパネルディスカッションが行われ、安全衛生活動、メンタルヘルスなど6つの分科会で交流しました。
 第2回東北セミナーは7月8〜9日に秋田市で開催され、132人が参加し成功しました。「アスベスト・じん肺問題から見えてくるもの」(秋田民医連・草g医師)の記念講演、労働安全衛生、メンタルヘルス、労働関連疾患の認定闘争などの講座が設けられ、地元の公的病院や民医連病院の医師、法律事務所の弁護士などを講師に学習し交流を深めました。
 第6回働くもののいのちと健康を守る関東甲信越学習交流集会は9月23〜24日、山梨県の石和温泉で開催され、県センターがない新潟、茨城などの仲間をふくめ過去最高の188人が参加しました。記念講演は「労災・職業病事件から学んだこと、元気づけられたこと」(全国センター副理事長・堤浩一郎弁護士)で、労働安全衛生活動、教職員のいのちと健康を守るとりくみ、じん肺・アスベストの請求実務、「こころの病の予防、職場復帰」など8つの分科会が持たれ医師等の分野別の交流も持たれました。
 近畿では第39回労災職業病一泊学校が、「とり戻そう『人たるに値する』労働と健康」をテーマに11月4日(土)〜5日(日)に京都で開かれ、163人が参加しました。記念講演は「アメリカ型企業モデルは社会の自滅の道」(関西大学・森岡孝二教授)で、「頸肩腕障害、腰痛、ストレス予防の職場体操」など6つの分科会が持たれました。
 17回目になる労災職業病九州セミナーは11月18〜19日、「若者の働き方と健康」をテーマに佐賀県・嬉野市で開かれ、600名が参加しました。記念講演は「働く人たちの『生きにくさ』を生む社会構造」(フリージャーナリスト・齋藤貴男さん)で、シンポジウムおよび分科会で「若者の働き方と健康」が深められました。
 北海道セミナーは来年2月に行われます。
 全国センター結成の翌年から開催してきた「働くもののいのちと健康を守る東日本・西日本セミナー」は、昨年から各ブロックで行われるようになりました。最後の東西セミナー(2004年)の参加者は合計で469人でしたが、東北、関東甲信越、中国の3つのブロックセミナーだけでも498人で、東西セミナーの参加者数を上回っています。
 これは働くもののいのちと健康を守る運動の広がりを示していますが、活動家養成を全国センター、中央団体、地方センターがそれぞれの役割を明らかにして推進することが求められています。そのためには、ブロック連絡会議を開催するなどブロック単位での活動をさらに進めることが求められています。

6.ILO総会対策など国際活動
 今年の第95回ILO総会では、「労働安全衛生の促進枠組み条約・勧告」の第2次討議が行われ採択されました。全労連から全国センターの井筒事務局次長らが出席しました。総会では新たな条約と第155号条約との関連が問われました。第155号条約は労働者の危険有害業務への就労拒否権など労働者保護を定めた優れた条約ですが、批准率が20%と低い現状があります。新たな条約には第155号条約の批准を促進できる枠組みが求められ、新たな条約が第155号条約にとって代わるようなことになれば、労働者にとって有害な事態となるという立場で労働者グループは奮闘し、その立場で決議されました。
 しかし日本政府は第155号条約をまだ批准していません。労安法成立の時の付帯決議でも155号条約の早期批准が決議されており、批准を求める声を大きくすることが求められています。
 ILOが提唱する「世界安全の日」の4月28日に国際統一行動として東京、愛知、大阪、福岡で、先進国で唯一アスベストを輸出しているカナダ政府に対して輸出全面禁止を求める要請行動が行われました。全国センターは生活関連公共事業推進連絡会議(生公連)、建設労組首都圏共闘、全労連の仲間とともに、カナダ大使館に即時輸出全面禁止を要請しました。
 その他の国際活動の検討は進みませんでしたが、今後もこの課題は重要です。

7.組織の強化
 1)地方センターづくりなど
   今年度は高知センターが結成され、全国センターに加盟する都道府県センターは21になりました。来年早々には和歌山センターも結成されます。
 第8回総会活動方針では「地方センターがない都道府県でのセンター結成、地方センターの活動の交流を促進し、ブロックセミナーの成功などを議題とするブロックごとの会議の開催を検討します」としましたが、来期の課題となりました。また第8回総会期からブロックセミナーに全国センターの四役が参加することになりましたが、ブロックセミナーの推進、各県センターを確立していく上で、ブロックの役割、機能、カバーする地域的な範囲などを明確にしていくことが必要です。 現在機能しているブロックを基本に、各県センターが全国センターの活動に参加しやすい形態、地域的範囲を検討する必要があります。
 ブロックセミナーが大きな成果をおさめ、各県でのセンターづくりが前進している今日、ブロック活動を重視することが求められています。


 2)組織強化委員会の設置
  アスベスト問題への対応など全国センターへの期待が大きくなる中、全国センターの体制強化、機関誌紙や会員拡大など財政基盤の強化、組織整備などについて、委員会を設置し検討をすすめました。委員会の答申は理事会で確認され、今期の活動方針案の骨格となっています。
 財政強化のためには会員拡大、機関誌紙の拡大が重要であり、3,000部の「季刊誌」をめざし、1,744部となりました。有料読者(会費分を除く)は昨年の総会から654部から691部、37部増となりました。通信は7,925部の発行となっていますが、有料購読部数は1,106部から1,123部の微増となりました。


 3)研究者交流会の検討
 全国センターの個人会員の研究者を対象に交流会を開催することを計画しましたが、諸般の事情で開催できませんでした。

 4)委員会、検討会、研究会、部会等の活動
  アスベスト対策本部、労働基準行政検討会、労働安全衛生学校運営委員会、公務部会、組織強化委員会は上記の諸課題を前進させる上で大きな役割をはたしました。基金運営委員会は「いの健」賞の審査などを行いました。季刊誌編集委員会は「働くもののいのちと健康」の編集、広報委員会は「全国センター通信」の編集を進めてきました。
 しかし情勢から強化が求められている分野であるメンタルヘルス研究会や地域共同部会などは、今期の活動は十分ではありませんでした。


 5)理事会、事務局体制の強化
  理事会は約70%の出席率で、執行力を高めてきました。また四役会議も理事会議題の整理や緊急の場合の声明発表など、その役割をはたしてきました。
 事務局体制は当面の課題を遂行する体制を作るとともに、長期的な視野で安定した事務局を作ることが求められています。



U.働くもののいのち、健康をめぐる情勢
 小泉「構造改革」は国民に大きな犠牲を押しつけ、大企業や大金持ちだけがさらに豊かになるというゆがんだ格差社会を作り上げました。小泉内閣を継承した安倍内閣は、憲法、教育基本法の改悪をさらに積極的に押し進めることを露骨に表明しています。
 「隙間なく救済する」というかけ声で「石綿による健康被害の救済に関する法律」(以下、石綿救済法)が成立しましたが、多くの被災者は何の救済も受けられず放置されたままです。長時間・過密労働は是正されず、悲惨な過労死、過労自殺も後を絶ちません。ワーキングプアが問題となり、事実上の派遣労働者を「請負」と偽装して、労働安全衛生法を適用させないなどの違法が横行しているなど、広範な働く人びとのいのちと健康が危険にさらされています。しかし政府は、自律的労働時間制(ホワイトカラーエグゼンプション)の導入などで働くもののいのちと健康をさらに脅かそうとしています。


1.アスベストをめぐる情勢
 1)隙間だらけの石綿救済法
 「石綿による健康被害の救済に関する法律」は、救済範囲を中皮腫、肺がんのみに限定し、その給付額もきわめて低く、きびしい認定基準によりこの法律でも救済されない被害者が続出しています。8月31日現在、地域でばく露した被災者のための特別遺族弔慰金・特別葬祭料での認定状況は中皮腫398件、肺がんは1件のみです。同じく地域でばく露し療養中の患者のための療養手当などの認定は中皮腫148件人、肺がん49件だけです。
 時効で労災補償が受けられなかった被害者の遺族のための特別遺族給付金は7月末日現在、357人が認定されただけです。
 ほとんどがアスベストによるものとされている中皮腫だけをみても、1995年から2004年の10年で7,013人の死亡者がいます。同じ10年で中皮腫で労災認定された労働者は412人ですから、6,601人が放置されています。アスベストによる肺がんは中皮腫よりも多いと言われていますから、特別遺族給付金、特別遺族弔慰金の支給件数(合計756)はきわめて少ないと言わざるを得ません。
 労災補償は、中皮腫、肺がんの申請は平成17年度が1,796件で、16年の210件から8倍以上増え、認定も17年度は722件(16年度が186件)ふえました。内訳は肺がん219件(前年度58件)、中皮腫503件(前年度128件)です。
 石綿救済法による肺がんでの特別遺族弔慰金の認定は1件のみですが、石綿肺と胸膜肥厚の2つがなければ認定されない(労災はどちらか一つ)など、認定基準がきびしすぎるからです。中皮腫の場合も厳格な病理組織診断を要求するなど、認定の幅はきわめて狭いものになっています。きびしすぎる認定基準は療養費の申請者1,234人のうち、197人が認定、不認定が4、保留が264件、その他は放置されたままという異常な事態(いずれも8月31日現在)を生みだし、申請して結果を待たず亡くなる患者が後を絶ちません。「迅速な救済をはかる」とした立法の趣旨からも逸脱しています。
 もう一つ問題は、時効と申請期間という時間の壁です。石綿救済法の特別遺族弔慰金や特別遺族給付金は法施行前に亡くなった方が対象で、申請期間は法施行後3年以内です。特別遺族給付金は法施行前に労災の時効になった方が対象ですから、法施行後に時効になった人は救済されません。現在、続々と時効の方が生まれていますが、対象外です。また法施行後に亡くなった方は石綿救済法の生前に認定を受けていないかぎり救済の対象にはなりません。認定基準や申請期間なども問題で、多くの被災者が切り捨てられています。
政府は9月1日から一部の製品に使用されるアスベストを除き、製造、輸入、使用などを禁止し、規制となる製品のアスベスト含有率を1%から0.1%としました。また作業及び健康診断などの結果の保存義務期間を30年から40年にするなど、政令、省令を改正しました。これらは一定の改善ですが、1000万トンとも言われる国内にあるアスベストの処理については見通しが立っていません。


 2)国、石綿関連大企業の責任を問うたたかいの前進
 国や石綿関連大企業は、石綿健康被害を起こした自らの責任を認めず、形ばかりの「救済」でこの問題の「幕引き」を狙っています。しかし中皮腫は20年後がピークと予測する研究者もおり、石綿による肺がんや中皮腫は潜伏期間が約30〜40年と長く、こんごますます被害が顕在化します。総括の項で述べたように私たちのとりくみは前進し、不当な「幕引き」は許さないと各地の被災者たちは、大阪・泉南に続き国、石綿関連大企業の責任を問う裁判闘争にたちあがる準備を進めています。国に抜本的な対策、石綿法の制定を求める運動がますます重要になっています。

2.深刻化する働くものの健康破壊
 小泉内閣が誕生してから自殺者が増え、メンタルヘルス不全が広がるなど、働くものの健康破壊が広がっています。さらに所得格差がそのまま健康の格差になってあらわれるなど、小泉「構造改革」により労働安全衛生などの規制緩和が進み働くものの健康状態は悪化しています。小泉内閣の路線を継承する安倍内閣は労働法制の改悪など、さらに働くものの健康破壊を進める政治を推進しようとしています。
 1)過重労働による疾患の増加
 2005年の脳・心臓疾患による過労死の労災認定申請は319件で、認定は157件でした。過労自殺も年々ふえ、申請147件に対し42件の認定です。過労自殺の認定件数及び認定率が過労死よりも少ないのは、「精神障害の業務上外の判断指針」に問題があるからです。全国の自殺者は8年連続3万人をこえており2005年には32,552人の方が自殺し、その内訳は自営業者3,700人、管理職629人、被雇用者8,312人となっており(警視庁調査)、過労自殺で労災申請し認定されるのは氷山の一角に過ぎません。
 過労死、過労自殺の温床はなお広がり続けています。サービス残業も依然として横行しています。厚生労働省の公表したところによると、昨年度労基署の是正勧告で100万円以上の未払い残業料を支払わせた企業数は1,524社に及びました。定期健康診断実施結果有所見率は、2005年度で48.4%でした。1995年は38.0%、1990年は23.6%でしたから、15年で倍以上になっています。東京労働局の調査(300人以上、1071社))によれば、「脳・心臓疾患の発症が懸念される企業」は、31.1%(2002年)、35.3%(2003年)、38.3%(2004年)と年々ふえています。同じ調査で「精神疾患の発症が懸念される企業」は、27.4%(2002年)、35.5%(2003年)、33.8%(2004年)と増えています。
 社会経済生産性本部の「メンタルヘルスのとりくみに関する企業アンケート調査」では、「過去3年間に心の病が増えた」企業は、2002年48.9%、2004年58.2%、2006年61.5%と急増しています。
公務労働に置いても、教職員の病気休職者6017人のうち精神疾患が3,194人(53.1%、2003年度)を占めるように、メンタルヘルス不全が進んでいます。また「自治体合併」による人減らしの中、自治体労働者のメンタルヘルス不全も広がっています。
 介護、保育などの分野で腰痛が多発しているなど、頸肩腕症候群をふくめ筋骨格系の疾患も無視できない広がりを見せています。
 公務員まで成果主義賃金が導入され、官民問わず「人べらし」が進行する中、長時間・過密労働はますます広がり、働くもののいのちと健康を破壊しています。


 2)労働災害の増加
 2005年度の労災保険新規受給者は55万人に達しており、あってはならない死亡災害は2005年度で1,514件でした。そして重大災害(3人以上の死傷者)は1985年の141件から2005年の265件へと増え続けています。原因は人減らしや、訓練が不十分なままの新たな技術の導入などが考えられますが、大企業を中心とした不法な偽装請負等の進行も指摘せざるを得ません。
 生産ラインに正規職員、派遣、請負などの労働者が重層化して混在し、過密な労働が常態化しています。短期雇用者の労働安全衛生教育の不十分さ、連絡調整の不十分さなどが労働災害の原因となっています。それは労働災害だけでなく、パロマの欠陥湯沸かし器、トヨタの欠陥車など製品不良にもつながり、国民に不安を呼び起こしています。
労働安全衛生法の改定で、危険性・有害性の調査及び必要な措置を行い、労働安全衛生マネジメントシステムを実施し、労働災害の発生率が業種平均を下まわっている事業主は、建物や機械などの設置などの届け出が免除されるようになり、さらに労災保険料のメリット制も拡大されました。これらが労働災害の発生や労災隠しの要因になっていることを指摘せざるを得ません。


 3)請負など不安定雇用者の健康、安全問題
派遣、請負などの不安定雇用の労働者は、低賃金で未熟練工、安全衛生教育も不十分であり、不安定、複雑な雇用関係のもとで安全衛生管理に関する責任の所在も不明確で、事実上労働安全衛法の適用外となっています。また元請事業者に契約を打ち切られることを恐れ、労災隠しに走る下請事業者も多いと考えられます。
 偽装請負に対する国民の批判が強める中で、今年の8月に厚労省は「製造業における元方事業者による総合的な安全衛生管理のための指針」を出しました。これまでの建設業、造船業にはあった元方事業者の安全衛生上の管理責任を製造業でも認めた点で注目されます。指針の積極的な活用が望まれています。
 請負など不安定雇用の労働者は約1,700万人です。若者を中心に増え続け、ワーキングプアと呼ばれる年収150万円以下の労働者が製造業、サービス業などあらゆる分野に広がり、400万世帯にもなっています。労働組合に入っている労働者は全体でも2割程度であり、不安定労働者の多くは労働組合にも組織されず、無権利状態に置かれています。労働組合への組織化やその実態を告発し改善を求めるたたかいも進んでいますが、年収は100〜200万円といわれ、労働安全衛生管理状態はきわめて劣悪であり対策が必要です。


 4)中小零細業者の健康状態の悪化
全商連共済会の死亡者調査(2005年)では、初診から24時間以内で亡くなった方は13.4%で、2004年の9.3%から増えています。同じく初診から死亡までの期間が1か月未満も16.5%で2004年の10%から増えています。死因はがんが48.7%、心疾患11.7%などですが、日頃の健康管理や健康診断で予防できたケースも多いと考えられます。また全国の民商の集団健診の統計では、有所見率が79.4%ときわめて高く、中小業者の健康状態はきわめて深刻です。
 中小零細の多い建設業者の中にもアスベスト健康被害も広がっていると考えられます。


3.労働法制改悪などの攻撃
上記のようないのちと健康の破壊原因は公務員まで導入された成果主義賃金、官民問わず進行している人減らし合理化、長時間過密労働です。また不安定雇用労働者の無権利状態も労働者のいのちと健康を脅かしています。
 しかし政府や財界は、いのちと健康が破壊されている実態を顧みず、「来年は労働法制の年だ」と、なみなみならぬ決意で労働法制の改悪を進めようとしています。


 1)「自由度の高い働き方にふさわしい制度」(ホワイトカラーエグゼンプション)の導入は許されない
 その第一が「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」(ホワイトカラーエグゼンプション)の導入です。厚生労働省は、6月に「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」を示しました。その中で「自律的労働にふさわしい制度」の創設が提案されました。その後、厚労省は「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」と呼び変えていますが、この制度は「使用者から具体的な労働時間の配分の指示を受けることがない者及び使用者から業務の追加の指示があった場合は既存の業務との調節ができる者で、1年間に支払われる賃金の額が自律的に働き方を決定できると評価されるに足る一定水準以上の額であるなどの要件を充たした場合、労働基準法35条(休日)と39条(年次有給休暇)以外の労働時間、休憩及び休日の労働及び割増賃金に関する規定を適用除外する」というものです。要するに一定水準以上の賃金など一定の条件を満たす労働者は、労働基準法による労働時間規制の枠外に置くというものです。
 経団連は年収400万円以上の労働者に適用するとしていますが、多くの労働者が1日8時間・週40時間の労働基準法の大原則からはずされることになります。
 過重労働による過労死、過労自殺が多発する中、異常な長時間労働を是正する実効ある規制が求められているのに、まったくその逆方向です。すでに教職員は、労働基準法37条適用外で「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」と言えますが、それも原因でメンタルヘルス不全が多発しています。「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」の導入で、ますます働くもののいのちと健康は危機にさらされます。
 そのほか政府、財界は「お金さえ出せば解雇は自由」など労働者の基本的な権利をないがしろにする労働契約法制の制定ももくろんでいます。これらの労働法制の改悪「労働ビッグバン」は財界の要求にもとづくものです。経団連は労働安全衛生規則で定められた「衛生管理者の週1回の職場巡視」をそれぞれの企業が「自主的な運用が図れるよう改正すべき」と規制緩和要求を出していますが、細かな点まで法律や規則の「規制緩和」をもとめ、政府は財界の要求を次々に受け入れています。
 いま国会では憲法改悪につながる教育基本法の改悪が審議されていますが、いま私たち働くものが直面している労働法制の改悪も「国民は勤労の権利を有し、勤労条件に関する基準は法律で定める」とした憲法第27条、「勤労者の団結権、団体交渉、団体行動する権利」を保障した憲法第28条をないがしろにするものです。戦争をしない国、安心して働ける国をもとめ、断固としてたたかうことが求められています。第9回総会では「憲法改悪を阻止し、働くもののいのちと健康を守ろう」の特別決議を行いましたが、まさに憲法で保障された働くものの権利をないがしろにする「労働ビッグバン」には反対していかなければなりません。
 「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」などの法改悪に、全労連をはじめ労働組合は反対運動を強めています。10月下旬、全国過労死家族の会が厚労省、連合に改悪阻止を要請しましたが、被災者とその家族のこのような運動も重要です。


 2)労働福祉事業の見直しなど
6月に成立した行政改革推進法において「労働保険特別会計に係る見直し」(第23条)で、労働福祉事業の廃止を含めた見直しが打ち出されました。厚労省内で見直しの論議が進んでいますが、労災給付に上のせされる特別支給金については今のところ検討課題にはなっていないようです。また未払い賃金立替払い事業については引き続き検討するとしています。しかし「補装具及び社会復帰保養事業」などは「削減・効率化」の対象とされ、「じん肺予防対策調査研究等の事業」は「廃止・整理(統合ふくむ)」の対象とされています。また「独立行政法人に対する運営費交付金等について、削減・効率化」が明記されていますが、労災病院の統廃合を進める方針です。見直しの範囲が全面的なので詳細な分析が必要です。さらに労働福祉事業のアフターケアについての見直しの議論も進んでおり、警戒が必要です。
 また労災保険の民営化も政府、財界はその意図を捨てていません。国家公務員については新たな労働災害補償制度を作る動きがあり警戒が必要です。


 3)特定健診、特定保健指導の導入
 厚労省は2008年から特定健康診断、特定保健指導を導入しようとしています。これにより、これまでの自治体、企業などが主体で行われてきた健診、保健指導が、医療保険の保険者が主体になり被保険者・被扶養者に対して行うことになります。この健診・保健指導はメタボリック・シンドローム(内臓脂肪症候群)に着目したものですが、脳・心臓疾患を減らすことを目的としています。したがって検査項目も腹囲、血糖、血圧などで、保健指導も運動、栄養などなど生活習慣改善が重点です。いわばこれまでの病気を見つけ死亡率を下げる健診から、医療費を減らすための健診となります。職場健診は労安法にもとづく健診が優先されるとしていますが、企業が保険者から委託された形になります。すでに職場健診の40歳以下の胸部レントゲンが原則廃止になりましたが、このような動きの中で、必要な健診項目を減らすなど労働衛生の後退を許してはなりません。
 この特定健診・保健指導は憲法で定められた国や自治体の公衆衛生における責任を大幅に後退させるものですが、自治体にはがん検診の拡充、無保険者の健康診断などを求めてたたかうことが求められます。また、健診・保健指導は保険者が外部委託することができますが、多くの民間企業が参入を狙っています。
 「所得格差」と同時に「健康格差」も問題になっていますが、すべての働く人びとの健康を守ることが大きな課題となっています。不安定雇用の広がりの中で、社会保険に加入していない労働者も増えていると思われます。労働安全衛生法規や医療保険制度などの適用を進めることも課題になっています。



V.今後1年間の活動方針
 教育基本法改悪案をはじめ国民投票法案などの国会での審議が始まるなど憲法改悪、日本を「戦争にする国」にしようとする動きが強めっています。戦争はいのちと健康を破壊する最悪の行為ですが、国民、働くものの権利に対する攻撃も強まりつつあります。憲法と平和を守り、健康で安全に働ける社会をめざす私たちのとりくみはますます重要です。財界と厚労省は労働基準法の根幹である労働時間の規制をはずす「自律的労働時間制」の導入をはかろうとし「来年は労働国会だ」と豪語していますが、まさに憲法で定められた労働者の権利を守る正念場となります。私たちは、アスベストや過重労働などによるいのちと健康破壊を許さず、さらに健康で安全な職場作りをめざし奮闘します。

1.アスベスト健康被害者の救済と抜本的な予防措置、石綿法制定をめざすとりくみ
 これまで述べてきたように、政府のアスベスト被災者対策は「隙間だらけ」で、数多くの被災者を切り捨てています。「救済」された人への給付もきわめて低額です。被災者やアスベストを曝露した人への健康管理も不十分です。さらに1000万トンともいわれる放置されているアスベストの処理の見通しも立たないなど、健康被害予防措置も不十分です。私たちは総合的で完全なアスベスト対策、石綿法の制定をめざし、以下のことをとりくみみます。

 1)被災者救済のとりくみ
  @被災者掘り起こしのとりくみ

 政府の広報活動の不十分さ、石綿救済法の不十分さなどで多くの被災者が放置されたままです。建設や造船、鉄道、製造業、工場跡地などアスベストばく露のリスクが高いと思われる業種や地域などで聞き取り調査や相談活動を行い健診に結びつけるなど、被災者の掘り起こしの活動をさらに強めましょう。これらの活動は労働組合のOBなどに協力を求めましょう。この活動は被災者を具体的に救済するとともに、アスベスト被害を社会的に明らかにしていく上でも重要です。

  A裁判闘争など被災者へ援助
 どこでどのように被災したか、被災者の証言運動も重要です。そして各地で被災者・家族の会の組織化を援助しましょう。
 大阪・泉南地域、香川・エタニットパイプの被災者が裁判に立ち上がりました。尼崎などこれ以外の地域、業種で裁判闘争が準備されています。国、石綿関連大企業の責任を問い、抜本的な石綿対策をとらせる上で裁判闘争は重要です。全国各地で被災者自らが行政や大企業に要求していくこと、裁判に立ち上がることなどをさらに援助していきましょう。


 2)行政への働きかけ
 健康管理や飛散予防対策、アスベスト含有物の廃棄物処理など自治体や労働基準局、保健所などに要求すべき課題もたくさんあります。行政への働きかけを重視しましょう。全国センターは政府への要請行動を行います。

 3)アスベスト問題をとりくむ体制の確立
 2度にわたる全国いっせい110番などで、医師や弁護士、労働組合などによる相談体制を作ってきました。またいくつかの県、地域ではアスベスト問題連絡会などが結成されています。これらの体制では、医師、弁護士ら専門家の参加を重視し、県や地域段階でのとりくみを積極的にすすめましょう。

 4)全国的なとりくみの交流
 全国センターは情勢や各地のとりくみの進展をみて交流集会を開催するなど全国のとりくみの交流をはかります。また必要に応じて全国的な運動の呼びかけを行います。当面、ハイリスクグループである製造業OBの被災者掘り起こしを重視し、5月に交流集会を開催します。

2.過重労働による過労死、過労自殺をなくし、メンタルヘルス不全を予防する活動
 いま職場では過重労働対策、メンタルヘルス対策など労働安全衛生活動はまったなしの課題になっています。また精神障害業務上外判断指針の改正を求めるたたかいなどが急務の課題となっています。今後1年間、以下の課題にとりくみみましょう。

 1)労働安全衛生活動の推進
  @職場での安全衛生委員会活動の活性化

 職場の安全衛生委員会を活性化させ、過重労働対策、メンタルヘルス対策にとりくみましょう。さらに働き方を見直す運動にとりくみ、すべての職場で過重労働、危険作業のチェックを呼びかけましょう。すべての労働組合、職場で担当者を置き、労働安全衛生活動を系統的にすすめましょう。全国センターは国の「労働安全衛生週間」にあわせて、各職場でのとりくみを発展させる呼びかけを行います。
また過労死、過労自殺を出した事業所に対する労基署などの調査を要求し、改善をはかる運動を強めます。


   A第2回健康で安全に働くための交流集会の開催
 また今年予定されている「第2回健康で安全に働くための交流集会」は、過重労働とメンタルヘルス対策を中心テーマにし、10月27〜28日(予定)に開催し各職場のとりくみを交流し発展させます。

 2)労災など被災者救済のたたかいと制度改革
  @労(公)災認定闘争の推進

 引き続き過労死、過労自殺、じん肺、振動障害、腰痛、頸肩腕障害などの労(公)災認定闘争、損害賠償などのたたかいを進めます。
 大きな問題になっている過労死や過労自殺などの認定基準、精神障害の業務上外判断指針の改正運動を進めます。
 じん肺・アスベスト根絶については、全国キャラバンの実行委員会に参加して運動を進め、振動障害の認定基準である307号通達の不当な被災者切り捨てにつながる改悪に反対します。
 公務災害認定闘争、基金の民主化などの課題をすすめ、2008年に公務災害認定闘争交流集会を開催する準備を進めます。
労災等係争事案調査を進め、事例検討会や認定闘争交流集会の開催を検討します。


  A被災者の立場にたった再審査制度の確立
 機能麻痺している労働保険審査会の廃止も含め被災者の立場にたった再審査制度のあり方を検討して要求をまとめ、政府への要求運動を強めます。

 3)労働法制改悪反対のたたかい
 「自由度の高い働き方にふさわしい制度」(ホワイトカラーエグゼンプション)の導入、労働契約法制など労働法制の改悪については、労働法制中央連絡会に結集して反対運動を進めます。とりわけ「自由度の高い働き方にふさわしい制度」については、長時間・過密労働が引き起こす健康破壊を明らかにし、過労死、過労自殺をなくす立場からとりくみを強めます。財界の労働安全衛生法など労働者保護法を改悪しようとする動きに反対し、ILO第155号条約の批准を求めるとりくみを全労連に協力して進めます。
労働福祉事業の廃止を含めた見直し、労災保険の民営化など、労災保険制度の改悪に反対します。


3.労働安全衛生活動をになう人づくり
 軌道にのった労働安全衛生中央学校、各ブロックセミナーなどをさらに成功させます。
 @ 各ブロックセミナー
 組織強化のところで述べるように、ブロックでの活動を重視し、一つひとつのブロックセミナーへの援助を強め成功させます。

 A 第3回労働安全衛生中央学校の開催と労働安全衛生ブックレットの発行
 研究者など専門家の協力も得て、来年6月に第3回労働安全衛生中央学校を開催します。また2回までの労働安全衛生中央学校の講義をもとに、労働安全衛生ブックレットを発行します。

4.不安定雇用者、中小零細業者など地域で健康を守るとりくみ
 労働組合に入っていない働く人々に目をむけ、とりくみを強めます。

 1)中小零細業者へのとりくみ
 中小零細業者の健康破壊は深刻です。そして特定健診・特定保健指導が2008年から実施されますが、厚労省や自治体の動きを分析して、無保険者、低所得者の健診など健康に生活する権利を守り、真にいのちと健康を守る健診・保健指導としていくとりくみをすすめます。これらは、自治労連公衆衛生部会など専門家と協力してとりくみを進めます。
 また各地ですすめられている民商健診、土建健診など業者の健康を守るとりくみの交流を強めます。


 2)失業者、不安定雇用者へのとりくみ
 偽装請負など不法な働かせ方の下で、不安定雇用者のいのちと健康は危険な状況に置かれていますが、労働組合に入っていない場合がほとんどです。また若者が多いのも特徴です。また失業と不安定雇用は隣り合わせですが、失業者にも目を向けたとりくみが重要です。労働組合への組織化も視野に、労働組合とともにこれらの人々の相談活動、救済活動も重視しましょう。とりわけ労働安全衛生法や労災保険法などの法的な労働者保護措置を知らず、社会保険に未加入で傷病手当金など健康保険の知識がない場合も多くあり、制度の啓発活動も重要です。個々の労働者の相談では、長時間労働による健康破壊と未払い賃金が表裏一体の関係であるなど、健康・安全問題だけでなく賃金なども含めた総合的な対応が必要となります。各地方センターなどは労働組合の相談窓口とも連携し、適切に対応していきましょう。そして不法な働かせ方やいのちと健康の破壊を社会的にアピールし、働くものの人権を守るとりくみを進めましょう。

5.組織と財政の強化
 情勢は働くもののいのちと健康を守る運動を大きくすることを求めています。全国センターを強く大きくするために、以下のことにとりくみみます。
 職場ではメンタルヘルス不全対策など労働安全衛生活動の強化が求められており、職場に依拠した全国センターの「季刊誌」や「通信」などの事業活動の推進が求められています。それを土台に財政力を強化し、理事会の執行力の強化、委員会、検討会、研究会、部会等の活動強化、事務局体制の強化をすすめます。


 1)委員会、検討会、研究会、部会等の活動強化
 委員会、検討会、研究会などの活動も重要です。前期大きな役割をはたしたアスベスト対策本部、労働基準行政検討会、労働安全衛生学校運営委員会、公務部会、基金運営委員会、季刊誌編集委員会、広報委員会などの活動をさらに発展させます。またメンタルヘルス研究会や地域共同部会なども、目標をたてて活動を強化していきます。

 2)会員拡大、読者拡大
  @ 会員拡大

  理事会として統一行動を組むなど、積極的に会員拡大にとりくみます。中立組合、新婦人などの中央団体、旧・職業病対策全国実行委員会に参加していた中央団体、各分野の「全労連と連帯する会」など、働くもののいのちと健康を守る活動を必要としているあらゆる団体に呼びかけます。
 さらにすべての県に「いの健」センターを確立していくことを前提に、県センターがない都道府県の県労連に全国センターへの加盟を呼びかけます。
 また個人会員については専門家への呼びかけを強めるととともに、労働運動OBについても退職後もご活躍頂けるよう積極的に個人会員になってもらうよう働きかけます。


  A 季刊誌・誌の拡大について
  全国センターの情報が職場まで届くことは、職場で働くもののいのちと健康を守る運動を組織する上で重要です。現在労働運動では労働時間、健康問題が重要課題です。
 全労連には春闘で回答を得る組織は4000組織(職場)ありますが、職場まで月刊紙「全国センター通信」や季刊誌「働くもののいのちと健康」が配布されることが求められています。当面、加盟単産には傘下の組合組織すべてに「通信」、「季刊誌」の購読を呼びかけます。
 各単産中央では責任者を決め方針と組織体制(組織内ネットワーク)を明らかにし、働くもののいのちと健康を守る運動の推進のため、全国センターの機関紙・誌を職場に広げていくことを呼びかけます。また季刊誌・紙の拡大については全労連や中央単産の機関会議で議論してもらうなどの手だてをお願いしていきます。
 すべての職場に機関誌・誌の拡大が届けると言う課題では、地方センター、県労連の役割も重要です。地方センターでは財政を豊かにすることにもつながりますので、積極的に計画を持ちとりくみをすすめましょう。
また今期は労働安全衛生のブックレットも発行します。これの普及も上記のとりくみとあわせ推進します。


 3)地方センター作りとブロックの形成
  今期は各県センター作りとブロックセミナーを成功させ、日常的な地方センターの交流を強化するため、各ブロックに担当4役、担当理事を置くことを検討し、活動を推進する体制を整備していきます。ブロックの範囲は現状から出発し、実状に応じて定めていくことにします。
 今期中に1度は全国センターの四役など役員が出席した各ブロックの連絡会議を開催します。すべてのブロックで、関東甲信越のようにブロック連絡会議を恒常的に開催することをめざします。
 全国的な地方センターの交流集会の開催を検討します。


 4)加盟単産責任者会議の開催など
 各単産の活動を交流するするとともに第2回健康で安全に働くための交流集会など全国センターの活動への要望を聞き、季刊誌・紙の拡大などを全国センターへの協力をお願いすることを目的に、2月に加盟単産責任者会議を開きます。

 5)個人会員の活動への参加の促進
 研究者、弁護士などの個人会員については具体的な課題での協力を求め、「いの健」活動への参加を促進します。また各種の集会を活用して個人会員の懇談会などを検討します。

 6)理事会執行力、事務局体制の強化
 全国的に「いの健」運動を推進するために、会員拡大や季刊誌・紙の拡大状況などを毎回の理事会議題にするなど、総会決定を具体的に推進するため、理事会の執行力を高めます。また情報収集能力を向上させ、季刊誌、「通信」の内容を充実させるなど、事務局機能の強化をはかります。そのために中・長期的な計画をもち事務局員の増員をはかります。

 7)組織・財政強化委員会の設置
 上記の課題を具体的に推進し、総会のあり方など組織のあり方を検討する組織・財政強化委員会を今期も設置します。

6.ILOなどの国際活動
 全国センターにふさわしい国際交流のあり方を検討し進めていきます。

終わりに  1998年に働くもののいのちと健康を守る全国センターが結成され、来年は10年目の節目になります。労働組合や地方センター、弁護士や医師、医療機関、研究者などの専門家が結集し、多面的にいのちと健康を守る組織として発展してきましたが、全国センターの役割もますます大きくなりつつあります。全都道府県で「いの健」センターを結成するなど当初掲げた目標の達成に力をつくし、「人間らしく働く」という大きな目標を掲げ、アスベスト問題など新たな課題も積極的に推進し、結成10周年を迎えましょう。



特別決議 憲法改悪を阻止し、働くもののいのちと健康を守ろう

 今年9月発足した安倍政権は、憲法改悪の動きを急速に強めています。教育基本法は悲惨な戦争の反省から「平和を希求する人間」の育成をめざし、憲法の「理想の実現は根本において教育の力に待つべきものである」と定めています。この教育基本法を抜本的に改悪し、「物言わぬ国民づくり」を目論む改悪法案が参議院で審議中です。さらに憲法改悪へ道を開く「国民投票法案」も今国会で成立させようとしています。
 これら一連の動きは、日本国憲法の平和的・民主的条項を覆し、働くものののいのちと健康を脅かすものです。今日、日本が世界の最長寿国となっているのは、経済的発展のみによってもたらされたのではありません。戦争を放棄し「平和」であったこと、経済格差が低く地域や職場における国民の社会的結束が強かったことが大きな要因でした。
 ところが今日「格差社会」が進行し、「勝ち組」と「負け組」が作り出され、経済格差が拡大しさらに固定化してきています。「経済格差」が「健康格差」を作り出し、「健康の不平等」化が進行しています。
 その原因は政府・財界が進めるアメリカ型の経済を世界に広めようとする「経済のグローバル化」です。それは多国籍企業化した大企業の権益確保とさらなる利益追求のため、軍隊の海外派兵を可能とする憲法9条の改悪を目論む一方で、「規制緩和」や社会保障制度の相次ぐ改悪をもたらし、憲法で保障されている人間らしい生活と労働、健康の破壊が進行しています。「ワーキングプア」と呼ばれる生活保護以下の収入しか得られない働く人々が急増する一方、大企業や都市銀行が空前の利益を上げ、一部の富裕層に富が集中しています。
 労働現場では雇用破壊が急速に進行しています。正規の職員・従業員が減少し、契約社員・嘱託、派遣社員、パート・アルバイトなど「非正規社員」が急増し、三分の一を超えています。非正規雇用労働者が、これまで正規雇用労働者が行っていた仕事を、低賃金・低福利厚生で働かされています。一方、正規雇用労働者は、きびしいノルマや成果主義管理の導入などから、長時間労働を強いられています。また違法な「偽装請負労働者」も増加してきています。こうした中、ストレスによる過労死や自殺、メンタル不全の労働者が急増しています。
 さらに政府・財界は際限のない長時間・過重労働をもたらす「ホワイトカラーエグゼンプション」の導入を中心とした労働時間法制の改悪や、「解雇の金銭的解決」を柱とした「労働契約法」の導入を目論んでいます。私たちは労働法制の改悪に断固反対しなければなりません。
 まさに今、健康の大前提である「平和」が脅かされています。WHOはヘルスプロモーションに関するオタワ憲章の中で、健康のための基本的な条件と資源の第一に「平和」を掲げています。第一次世界大戦の教訓から生まれたILOは、「世界平和及び協調が危うくされるほど大きな社会不安を起こすような不正、困苦及び窮乏を多数の人民にもたらす労働条件」を改善することをめざした活動を行うことを、憲章前文で述べています。
 私たちは「働くもののいのちと健康をまもる」ために、日本国憲法の改悪を許さず、平和的・民主的条項を職場・地域で実現する運動を進める決意を明らかにします。
 以上決議します。

 

2006年12月8日 働くもののいのちと健康を守る全国センター 第9回総会
第9回総会で選出された役員

理事長
 福地保馬(個人会員)
理事長代行
 長谷川吉則(全日本民医連)
副理事長
 岡村親宜(個人会員)、佐藤雅之(MIC)、田村昭彦(九州セミナー)、堤浩一郎 (自由法曹団)、宮垣忠(全労連)
事務局長
 今中正夫(全日本民医連)
事務局次長
 井筒百子(全労連)、柴田和啓(東京センター)
理事
 阿部清美(全労連)、阿部眞雄(個人会員)、伊藤良文(国公労連)、伊藤喜夫(化学一般労連)、大山泰弘(広島センター)、岡野孝信(日本医労連)、蟹沢昭三(全教)、川口英晴(JMIU)、菊谷節夫(神奈川センター)、木下恵市(京都センター)、小滝勝弥(埼玉センター)、佐々木昭三(個人会員)、篠原勇(自治労連)、鈴木蔵人(生協労連)、高橋敏夫(民放労連)、東郷泰三(全日本民医連)、富樫昌良(宮城センター)、冨田素實江(北海道センター)、中林正憲(千葉県センター)、藤好重泰(建交労)、保坂忠史(山梨県センター)、宮崎脩一(愛知センター)、村木俊之(全商連)、村田敏史(大阪センター)、森崎 巌(全労働)
監事
 貝之瀬信夫(全信労)、松澤秀紀(長野県センター)
顧問
 池田 寛(全国センター元事務局長)、田尻俊一郎(大阪社医研元所長)、辻村一郎(同志社大学名誉教授)、細川 汀(京都府立大学元教授)、山田信也(名古屋大学名誉教授)、 渡部眞也(滋賀医科大学名誉教授)
参与
 色部祐(全国センター元事務局次長)、北口修三(全国センター前理事)、島倉昌二(全国センター元相談員)、高田勢介(全国センター相談員)、丸山富治(建交労・建設一般元書記次長)