第8回総会の概要

1.総会の概要

 働くもののいのちと健康を守る全国センター第8回総会が、12月9日に平和と労働センター・全労連会館で開かれた。代議員・役員の総会構成員定数は268人であったが、79人(代議員50人、役員29人)が出席し、82人の代議員から委任状が提出され合計161人であり、過半数を超え総会は成立した。新年度活動方針案、2005年度決算及び会計監査報告、2005年度決算繰越金処分案および2006年度予算案、新役員選出案のすべての議案を満場一致で採択し、新役員(別項)を選出した。なお第2回働くもののいのちと健康を守る全国センター賞が、北海道石炭じん肺原告団・弁護団と生協労連に贈られた。また特別決議、「すべての被害者が労災なみの補償で救済される石綿新法を−国、関連大企業の責任で総合的なアスベスト被害対策を確立せよ−」を決議した。

2.総会役員

 総会議長は建交労・神田豊和氏、東京センター・色部祐氏がつとめた。資格審査委員は全労連・井筒百子氏、自治労連・洲永吉昭氏、愛知センター・今枝正昭氏がつとめた。議事運営委員は、東京センター・柴田和啓氏、全教:水落貴司氏、京都センター・尾浦邦彦氏がつとめた。

3.主な議事と発言(くわしい内容は「全国センター通信」79号参照)

 福地保馬理事長が冒頭にあいさつした。福地理事長は1年間の働くもののいのちと健康を守るとりくみの前進を指摘するとともに、アスベスト問題への積極的な対応、労働法制への攻撃を許さないこと、情勢の求めるいのちと健康を守る運動の組織的力量拡大を訴えた。
 韓国・源進職業病財団の朴賢緒理事長をはじめ、全国じん肺弁護団連絡会の山下登司夫幹事長、日本共産党の笠井亮衆議院議員から、来賓のあいさつを受けた。なお労働科学研究所の前原直樹所長からメッセージが寄せられた。
 今中正夫事務局長が経過報告や新年度活動方針案、決算報告・予算案などの議案を提案。松澤秀紀監事が会計監査報告を行った。新役員の提案は高橋一己副理事長が行った。
 代議員を中心に18人の方が発言した。労災認定闘争の前進と認定基準を変える運動の重要性、地方公務員災害補償基金(基金)の問題点とたたかいの方向、アスベスト健康被害を救済する運動、地域センターの結成など、積極的な意見が述べられた。
事務局長の総括答弁を受け、すべての議案は満場一致で採択され、新年度役員を選出し、井筒百子事務局次長が提案した特別決議「すべての被害者が労災なみの補償で救済される石綿新法を−国、関連大企業の責任で総合的なアスベスト被害対策を確立せよ−」を決議した。

第8回総会活動方針

はじめに

 第7回総会から1年がたちました。この1年、私たちは働くもののいのちと健康を守って、積極的に活動をすすめてきました。労安法改悪反対のたたかい、アスベスト問題への対応では基本的な要求と政策を明らかにし、全国的な運動の発展に寄与してきました。また中央労働安全衛生学校、健康で安全に働くための交流集会などを成功させ、活動の交流や活動家養成にもとりくんできました。じん肺患者の救済と根絶、過労死・過労自殺の認定闘争などでも大きな成果をおさめてきました。
しかし小泉「構造改革」は、国民の生活をますます困難にし、働くものの健康状態をますます悪化させ、悲惨な過労死、過労自殺は後をたちません。またアスベスト被害は、大きな規模で顕在化しようとしています。政府は財界の要求を受け入れ、労働安全衛生法等を改悪し、さらにホワイトカラー・エグゼンプションなど働くもののいのちと健康をさらに破壊する労働法制の改悪を推しすすめようとしています。
 同時に一気に憲法改悪を行い、「戦争する国」づくりをめざす勢力の動きが強まっています。私たちは平和のもとでこそ健康で安心して暮らしていける、働けるということを、今こそ声を大に主張しなければなりません。
 働くもののいのちと健康、人間らしく健康に働く権利を守ってたたかいってきた私たちの役割が、ますます注目され重要なものとなってきました。第8回総会は、@2005年度の活動を総括し、2006年度の活動方針を確立する。A2005年度決算および2006年度予算を確定する。B新年度の活動推進の先頭に立つ新役員を選出することを目的に開催します。

T.第7回総会以降の活動の総括

 第7回総会以降、全国センターは労安法等改悪反対のたたかいを推進し、第1回中央労働安全衛生学校、第1回健康で安全に働くための交流集会などはじめての課題も成功させました。また6月末のクボタの公表以降、アスベスト被害についての国民の不安と怒りが大きく広がりましたが、全国センターは8月と11月に2回の全国的な会議を呼びかけるなど、被害者救済、被害拡大予防対策拡充のたたかいで大きな役割をはたしました。これらの積極的な活動をすすめつつ、05年度決算では一定の黒字(来年度繰越金)を確保し、財政の安定化にも一歩を踏み出しました。

1.第7期の主な活動
 第7回総会活動方針は、@心と身体の健康破壊を食い止める職場、地域づくり、A労(公)災認定闘争、被災者救済のとりくみ、B活動家養成、C労働法制改悪反対のたたかい、DILO対策など国際活動、の5つを重点課題としましたが、アスベスト問題など情勢に対応し、諸課題を推進してきました。

 1)心と身体の健康破壊を食い止める職場づくり−健康で安全に働くために交流集会の 成功など
 過労死、過労自殺を食い止める職場づくり、アスベスト問題を含め地域で健康を守るとりくみが重視される中で、全国センターとして保健や安全を重視し、疾病予防、事故防止に重点をおいたはじめての交流集会「健康で安全に働くために交流集会」を9月30日〜10月1日に大津市で開催しました。139名が参加し、記念講演の松浦健伸医師、分科会助言者の阿部眞雄医師や研究者、滋賀、京都センターの協力も得て、大きな成果をおさめました。第1分科会「労働安全衛生活動」では、20年間行われてきている地域での安全衛生パトロールのとりくみ(北河内職対連)や、3次下請けの労働者が元請けとも交渉し危険な作業環境を改善していったとりくみ(建交労環境部会)など教訓的な報告がされ、参加者同士がお互いに学びあえた有意義な交流となりました。第2分科会では東京土建、尼崎医療生協などのアスベストとりくみ、高槻民商の大腸がん検診や埼玉民商の保健大学、千葉での農民連健診のまとめなどが報告され、地域で健康を守るとりくみが交流されました。また第3分科会では阿部医師の講演でメンタルヘルスケアとその職場復帰が深められ、名古屋水道労働組合、名勤生協労組や北海道高教組などから報告があり、実りの多い交流が行われました。
 また京都センターでは「働き方を見直す京都7月集会」が開かれ、各ブロックセミナーでも保健や安全、疾病予防や事故防止の課題が重視されました。また生協労連、自治労連、新聞労連、全商連、全日本民医連など各団体でも交流集会を行い、全教が市段階などで労働安全衛生委員会を設置させるなど、大きな成果をあげました。また各センターも労災防止指導員、安全週間、衛生週間に参加していくなどのとりくみを重視してきました。
 4月25日には107名の死者を出したJR西日本の脱線転覆事故の大惨事がありました。事故の原因には、安全よりも利益、効率を求めるJR西日本の企業体質があったことは明らかです。健康で安全に働くための交流集会に国労西日本の田中書記長を呼んで報告をいただき、全国センターとして見解をまとめる努力をしてきました。

 2)労(公)災認定闘争、被災者救済のとりくみ
 じん肺、過労死、過労自殺などの被災者救済、根絶のたたかいがすすみました。

 @じん肺の被災者救済、根絶のたたかい
  筑豊じん肺訴訟の勝利に続いて、この7月に北海道石炭じん肺が370名の被害者の救済を勝ち取って終結しました。その後10月に新北海道石炭じん肺訴訟に109人が決起し、西日本でもじん肺裁判がたたかいわれ、全国各地でトンネルじん肺訴訟もすすめられています。じん肺弁連、建交労などがすすめてきた「なくせじん肺全国キャラバン」も16回目を迎えました。

 A過労死・過労自殺などへのとりくみ
 過労死・過労自殺の被災者救済についても全国センター、地方センターは重視してとりくみました。滋賀県職員の過労自殺が支部審査会で公務災害認定、通信労組組合員の奥村さんの過労死についてNTTに健康管理上の過失があるとした札幌地裁での勝利判決、派遣社員であった上段さんの過労自殺で派遣先・元の安全配慮義務違反を認めさせた東京地裁判決、一人親方の建築職人の脳出血の労災認定(京都建築労)、一人親方のダンプ労働者の過労死認定を労働保険審査会で勝ち取った青柳事案(建交労関東ダンプ栃木支部)、保育士のぎっくり腰の公務災害認定で大阪高裁で勝利判決(基金は上告せず確定)を勝ち取った有信事案など、いくつかの前進がありました。しかし慢性疲労や長時間労働を考慮しない精神障害の認定基準で、過労自殺の労災認定はきびしい状況にあります。過労死についても労働時間で機械的に認定しないケースも多く、改善をもとめるたたかいが重要になっています。
 過労自殺の認定基準検討会を11月10日に行いました。これには30名が参加し、岡村副理事長の講演、横森事案、川田事案などの報告を受け、認定基準の問題点と改善方向について活発に意見交換しましたが、認定基準を改善するたたかいが重要であることを再確認しました。
 労働基準検討会を中心に労働保険審査会への要求をまとめ、8月に交渉を行いましたが、前年度からの繰り越し事案件数が1,300件をこえるという処理の遅滞を改めさせるためには、国会などで問題にすること、さらに世論を喚起することが求められています。
 第1回公務災害認定闘争交流会を3月に京都で開きました。自治労連、全教、国公労連などから82人が参加し、過労死・過労自殺、腰痛、肩頸腕障害などの公務災害認定のたたかいを交流し、基金民主化について議論しました。

 3)アスベスト問題への対応
 6月29日、クボタの報道以降、多くの労働者がアスベスト製品製造工場などでアスベスト関連疾患で亡くなっていることが明らかになり、国民の間に不安が広まりました。全国センターはこの問題を重視し、緊急にとりくみを強める必要があると判断し、「石綿対策を急いで強化しよう」の4役会議アピールを7月27日に発表しました。
 このアピールに前後して、福岡での電話相談活動を皮切りに全国各地で相談活動がとりくみまれ、自治体や労働局への申し入れ、学習会など、全国的にとりくみが広がりました。尼崎などでは地域での訪問調査・健診活動、福岡では労災申請への援助、建交労がカナダ大使館への要請行動を行い、北海道、福井、山梨、兵庫、山口などでは都道府県段階で地方センターや弁護士、民医連、県労連などで「アスベスト被害対策センター」など特別の体制、組織が作られるなど、地方センターや中央団体は積極的な行動、とりくみを展開しました。さらにクボタがある尼崎では地域センターができ、全教の学校施設点検の要求運動、国労でのOBの健診の制度化など、大きなとりくみに発展してきています。
 全国センターはこれらのとりくみの交流をはかりさらに促進するため、加盟団体以外にも呼びかけ、8月24日に「石綿(アスベスト)被害対策懇談会」を行いました。これには21都道府県、42団体、84人が出席しました。懇談会では、アスベストによる健康被害などについての学習を行い、各地や各団体のとりくみを交流しましたが、運動、とりくみがさらに大きく広がる契機となりました。
9月7日には全労連と共同して厚生労働省交渉を持ち、すべての被害者への十分な補償、労災認定基準の改善、健康管理制度の拡充、被害拡大の予防対策強化などを要請しました。しかし政府は国の責任を認めようとはせず、労災補償を受けられない人に対して、きわめて低水準の給付しか行わない「石綿新法」の構想を明らかにしました。
 国の責任を認めず、十分な対策をとらない政府の動きに対し、全国センターは全労連、全日本民医連と共同して、「実効ある『石綿新法』をめざす相談会 アスベスト被害の救済、被害防止対策をすすめよう」を呼びかけ、11月3日に開催しました。この相談会は、@全国的に前進してきているアスベスト被害のとりくみを交流し、さらに前進させる、A政府の「石綿新法」のねらいと問題点を明らかにし私たちの対案を検討してまとめる、B国やアスベスト関連企業(輸入・製品製造などで使用した大企業)の責任の明確化−などを目的に開催されましたが、全建総連から石綿全国連の100万署名をともにすすめようというメッセージが寄せられるなど、時宜を得たとりくみとなりました。これには12中央団体、18県の地方組織代表ら62人が出席し、「石綿新法は限られた被害者に対する低水準の救済であり、政府は国の責任を認めていない。国と関連大企業の責任を明らかにし、被害者救済、ばく露者への健康管理、被害予防対策など総合的な対策をとらせるため、相談活動、調査活動などの患者掘り起こし、政府、国会への働きかけや裁判闘争などを積極的にすすめる」ことを確認しました。
 11月29日に政府は、9月末に発表した「石綿による健康被害の救済に関する基本的枠組み」、いわゆる石綿新法の内容をより具体化した「石綿による健康被害の救済に関する法律案大綱」を発表しました。しかし救済内容は遺族や被害者の生活を継続することができないような低い給付水準であること、対象疾病が中皮腫と肺がんに限られることなど、極めて不十分な内容でした。全国センターは12月6日、新法の給付水準は少なくとも労災保険や公害健康被害補償法なみの補償とすること、被害者の健康管理、被害予防措置の拡充を求めて環境省交渉を行いました。
 責任を認めない国に対する大きな運動、被害者の掘り起こし、国、関連企業の責任を追及するたたかいが急務になっています。

 4)活動家養成と活動の交流
 @ 第1回中央労働安全衛生学校
 6月4〜5日に、第1回中央労働安全衛生学校を熱海市で開催しました。これには受講者82人、講師・座長・事務局あわせて94名が参加し成功しました。働くもののいのちと健康を守る運動の歴史と課題、職場健康調査、職場の健康評価、労働安全衛生法などの法規、労働組合の役割の5つの講義が行われましたが、いずれも好評で、「職場に帰って実践します」などの感想が多く寄せられました。しかし1泊2日で行ったため、「詰め込みすぎ」という批判もありました。参加者の多くが職場の組合等の活動家でしたが、この学校の成功の要因の一つに、メンタルヘルス不全など職場で健康破壊がかつてなくすすみ、安全、健康を守るとりくみのための学習が現場で切実に求められていることがありました。
 また北海道、千葉、埼玉、東京、大阪など、労働安全衛生講座をとりくむ地方センターが増えています。
 A 各ブロックセミナーの成功
 西日本、東日本セミナーを終了し、各ブロックでセミナーを行うという方針は積極的に受け止められ、東北、中国、東海北陸ではじめてのブロックセミナーが行われ、四国以外のブロックでセミナーが行われました。
 「働くもののいのちと健康を守る第1回東北セミナー」が、7月2、3日の両日、山形県上山温泉で開かれました。東北各県から140人が参加しました。@労働安全基礎講座、A働くもののメンタルヘルス、B労働関連疾患の認定闘争の進め方、C女性の健康問題と権利の4つに講座がもたれました。
 中国ブロックはじめてのセミナーは、7月23〜24日に全国5大渓谷の一つの三段峡で開催され124名が参加しました。「学び交流し、職場地域からたたかいを起こそう」「いのちのかけがえなさを心に刻もう」を2大テーマにして課題講演や記念講演、5つの分科会が行われました。  「2005働く人いのちと健康を守る北海道セミナー」は、10月22〜23日に十勝川温泉で開催され、90名が参加しました。労働者の健康を守る法制度、アスベスト問題での講演が行われ、「職場における労働安全衛生活動」など4つの分科会では、合計24本の報告があり、討議が深められました。
 第1回東海北陸ブロックセミナーが、10月29〜30日、名古屋市で開かれ、福井、岐阜、静岡、愛知から、過労死家族の会を含め55名が参加しました。アスベスト災害問題、メンタルヘルス不全の労働者の職場復帰について講演、「労安はじめの一歩」などの分科会が行われました。
第16回労災職業病九州セミナーin長崎が11月12日〜13日に「今の働き方は、あなたを幸せにしますか 〜 激変する労働現場と働く者の健康」をテーマに開催され、600名をこえる参加者と90本をこえる実践報告と熱心な討論によって大きな成功をおさめました。記念講演やパネルディスカッションでは、上記のテーマが深められ、アスベストなど10の分科会が行われました。
 第5回働くもののいのちと健康を守る関東甲信越学習交流集会は11月19〜20日に熱海市で開かれ165人が参加しました。これにはこれまで独自にこの分野の交流集会を行ってきた民医連関東甲信越地協も合流。分科会では教職員、運輸・交通産業、じん肺・アスベスト等分野別で交流が深められました。
 近畿の第38回労災職業病1泊学校2005が11月26日〜27日に京都で開かれ、173人が参加しました。アスベスト問題で記念講演が行われ、頸腕・腰痛・ストレス予防の職場体操、職場の予防・改善運動、教職員の安全衛生など6つの分科会がもたれ学習し交流を深めました。

 5)労安法等改悪反対運動など
 今期、労安法等改悪闘争にとりくみました。全労連、過労死を考える家族の会とともにとりくんだ第162国会、第163国会での国会行動は9次におよび、のべ132人が参加しました。さらに反対リーフレットを3万枚発行し、要請ハガキ8,000枚を厚生労働委員を中心とした国会議員に集中するなど、かってないたたかいをすすめました。私たちのたたかいと郵政民営化法案の問題での衆議院解散で、第162国会では廃案になりました。しかし自民党が大勝した選挙後の第163国会では成立しました。
 この法案は部分的には改善措置もありましたが、医師の面接指導の要件を「月残業100時間、本人の申し出」に後退させ、時短促進法を廃止し、労働安全衛生マネージメントシステムの導入と引き替えに機械等設置事前届け出義務を免除する、労災保険料のメリット制を拡大するなど、日本経団連など財界の要求に応えた労働者保護法制の「規制緩和」で、過労死、過労自殺、重大災害を増やす改悪法案でした。
 2月3日に労働政策審議会が、労働安全衛生法等「改正案」要綱を了承しました。14日に事務局長名でこの法案要項の問題点を指摘し反対の立場を表明した談話を発表し、厚生労働省に申し入れましたが、3月4日に政府は労働安全衛生法等改悪案を国会に提出しました。2月24〜25日に行われた地方センター代表者会議でも反対運動の強化が意思統一され、3月15日に4役会議は、「いのち・健康を守る労働者保護措置を大幅に後退させる労働安全衛生法等の改正案に反対する行動を強めよう」のアピールを出しました。
 「4役アピール」は、@宣伝資材の準備、A国会行動への参加、A職場・地域での学習会や決議運動、共同闘争を呼びかけたましたが、北海道、東京、大阪、山梨、京都、北九州などの地方センターは緊急に学習会を開いたり、労働局への申し入れ活動などを行いました。また建交労、新聞労連、全教、全日本民医連などの中央団体は、談話・声明を発表したり、厚生労働省交渉を行うなど、反対運動をすすめました。
 3月16日の第1次国会行動では、厚生労働省担当官に「労安法等の一部改正法案」の説明をさせ、本案の問題点を確認し、36人が参加して70名の衆・参の厚生労働委員に議員要請行動を行いました。
 4月27日の第2次国会行動では、全労連、全国過労死家族の会とともに、各党の議員を呼んでの議員懇談会、厚生労働省交渉を行いました。これには45名が参加しました。
 これらを含め国会行動は9回におよびましたが、過労死を考える家族の会の方々は「過労死を増やす法案は反対」と積極的な要請行動をすすめました。
 8月8日、郵政民営化法案の参議院での否決により国会解散となり、審議入りを遅らせた私たちのたたかいにより労働安全衛生法等改悪案は廃案となりました。しかし自民大勝の後の第163国会に再提案され、衆議院、参議院での審議はそれぞれ実質1日だけというスピードで、しかも与党と民主、社民の両党までもが賛成し、日本共産党だけの反対で、10月26日、参議院本会議で可決しました。
 しかし、法案成立時に全会一致で採択された付帯決議は、成立した「改正案」の細部を定めた省令などその後の厚生労働省の施策に一定の影響を与えました。上記の「月100時間残業、本人の申し出」は「法による義務」として省令で定められますが、その基準に達しない場合でも医師との面接指導が行うことができる「努力義務」を事業主に科すこと、ILO155号条約の早期批准などが付帯決議に盛り込まれました。それにより「過重労働による健康障害防止のための総合対策」の「残業45時間以上」「残業80時間以上」の対策も「努力義務」として残る可能性が出てきました。またILO155号条約は、労働安全衛生活動への労働者の参画権、危険作業の就労拒否権、同一事業所で2つ以上の企業の労働者が働く場合は元請企業の安全管理責任を明らかにしていますが、これも積極的な内容です。付帯決議は部分的とはいえ私たちの要求を反映した内容が含まれました。
 全国センターは、@「過重労働による健康障害防止のための総合対策」にある「月80時間以上の残業で医師の面接指導」「月45時間以上の残業で助言、指導」の内容を、省令に明記すること。A同一事業場で2つ以上の企業労働者が多数混在している場合は、労安法第30条(特定元方事業者等に講ずべき措置)を適用し、元方事業者の安全管理責任を明確にしてILO155号条約を批准を促進すること、の2点を要求したたかいを加盟組織によびかけました。
 省令案は12月7日に発表されました。上記の「過重労働による健康障害防止のための総合対策」の「残業月45時間以上」などの内容は省令案には明記されませんでしたが、12月8日に全国センターは厚生労働省交渉では、通達として残すことを明言しました。その内容はまだ明らかではないので、予断を許しませんが、「過重労働による健康障害防止のための総合対策」の積極的内容が反古にされなければ私たちのたたかいの成果です。引き続き、パブリックコメントに意見応募するなど、最後までたたかいつづけることが求められています。
 第7回総会活動方針で掲げた「働くものの健康と憲法」の学習会は、開催できませんでした。

 6)ILOなど国際活動
 第93回ILO総会は2005年5月31日〜6月16日、ジュネーブで開催され、「労働安全衛生のための促進的枠組み」(第4号議題)が討議されました。これに先立ち、全国センターは国際労働安全衛生研究会のメンバーを中心に「05年ILO総会『第4号議題』に関するワーキンググループ」を設置して、対応をすすめました。事前に発表された第1次レポートついて、ILOは各国政府が関係団体の意見をまとめ提出することを求めていましたが、日本政府は日本経団連と政府の意見のみをILOに提出し、連合は意見を出さず、全労連、全国センターには、情報提供がありませんでした。
 全国センターは第1次レポートの内容は安全文化や予防的な労働安全衛生、国家計画が重視され、ILOが主張してきたディーセントワークの考え方を一歩前進させたものであり、基本的に賛成できる内容であること確認し、「勧告」ではなく「条約」とすること、第155号条約を批准せず今回も「勧告」とすることを求めている日本政府と私たちの見解は違うことなど全国センターの意見をまとめ、2月19日付でILO本部に文書を提出しました。そして2月22日、厚生労働省に@ILO第93回総会で決議される新文書を国際条約として確立すること。A新文書の求める「国家計画」は関係団体も含め協議のうえ計画作成し、国会の承認事項とすること。BILO第155号条約をただちに批准すること。CILO情報は迅速に開示し、日本経団連と連合とのILO懇談会を公開すること。また、働くもののいのちと健康を守る全国センター等、関係者との協議の場を設けることを要請しました。またILO総会にむけ、「労働安全衛生活動をめぐる日本の現状と課題」をまとめました。
 その結果、総会では「文書」が条約として提案されるなどの成果があり、総会でも条約として文書を来年採択されることになりました。しかし討議では使用者側が「宣言」とすることを求めアメリカなど6カ国が「宣言」を支持し、政、労、使から出された修正案は150にのぼり、労、使のきびしいやり取りがありました。そして来年の総会で再度討議することになりました。労働者側は来年の総会の第2次討議にむけて、各国で政府に働きかけ、第1次文書のレベルを高める運動をつくることを申し合わせましたが、日本でもそのとりくみをすすめることが求められています。
 前回および今回の総会に韓国・源進職業病管理財団の朴理事長にご出席いただきましたが、同財団との定期交流、アジア段階での労働安全衛生関係の国際会議の検討はすすみませんでした。

 7)委員会、検討会、研究会など
 理事会の下に労働安全衛生中央学校運営委員会、健康で安全に働くための交流集会実行委員会、広報委員会(「通信」)の編集、季刊誌編集委員会、「基金」運営委員会、安全対策委員会、公務部会、地域共同部会、労働基準行政検討会、「05年ILO総会『第4号議題』に関するワーキンググループ」を設置し活動をすすめて来ました。
 労働基準行政検討会は労働保険審査会交渉や過労自殺の認定基準検討会などをすすめ、地域共同部会、メンタルヘルス研究会は「健康で安全に働くための交流集会」の分科会の準備・運営に携わり、成功させました。国際労働安全衛生研究会の活動は、今期は「05年ILO総会『第4号議題』に関するワーキンググループ」に引き継がれました。しかし今期開かれなかった研究会などもありました。

.組織の強化


 1)地方センターの結成と代表者会議
 この1年間では奈良センター(3月26日)、一宮(10月7日)、板橋(11月17日)の地域センターが結成され、運動が前進しました。奈良センターは2003年に奈良で開かれた西日本セミナー以降、大阪、京都センターなどの援助も受けて準備がすすめられ、奈労連、奈良民医連、奈商連などが中心になって結成されたものです。すべての都道府県に働くもののいのちと健康を守る組織を確立することはますます重要な課題です。
 地方センターの結成の促進も一つの目的とし、秋田、岩手、山形、奈良のセンターがない県からの出席も得て、2月24〜25日、地方センター代表者会議を熱海市で開催し、20地方組織から30人が出席しました。この会議は、@激動する情勢の認識を一致させること、A地方センターと全国センターの役割と課題を明らかにすること、Bブロックセミナーの成功と地方センター結成の推進が目的でした。そして「草の根・参加型のいのちと健康を守る運動をつくる」など地方センターの役割を確認し、特に情勢では、労働安全衛生法等改悪案の問題点が明らかにされ反対運動の強化、ブロックセミナー成功のため奮闘することを申し合わせました。

 2)財政基盤の強化
 2005年度予算では一定の予備費を計上し、正常な資金繰りを行えるようになり、決算でも一定の黒字を出し、来年度に繰り越せることができましたが、決算でも財政はさらに安定しました。財政の安定化は、事務局での外注印刷の削減、印刷会社の変更など経費節減の努力、集会、オープンな検討会などは独立採算とし赤字を出さずきたこと、季刊誌「教員特集」の特別購読や有料読者の拡大、「通信」の基準部数にもとづく無料配布部数の変更と有料購読の拡大にともなう収入増と印刷経費の節減によるものです。個人会員の会費を7000円に引き上げましたが会員1人増で、財政安定化に寄与しました。集会や労安法改悪反対のたたかいなどを積極的にすすめる中で、財政を安定させてきたことは、大きな前進です。
 運動課題が増え、事務局体制の強化なども求められており、財政基盤を強化することが求められています。

 3)機関誌・紙の発行
 季刊誌「働くもののいのちと健康」、「全国センター通信」については、送料込みであった購読料を本体分、送料部分に分け、部数によって価格を設定し適正化し、地方センターでの拡大がすすむ措置をとりました。また「通信」では、一定部数が無料配布されていましたが、当該組織に有料での買い取りをお願いし、部数の適正化をはかってきました。「季刊誌」は1000部拡大の目標を掲げましたが108部、「通信」は929部有料部数が増え、財政に貢献しています。
 季刊誌、通信とも定期的に編集委員会、広報委員会を開かれました。「通信」では各県センターや中央団体にも原稿をお願いし全国のとりくみの交流がはかられ、政府などの動きもいち早く紹介し、読みやすい紙面となるよう努力してきました。「季刊誌」では、「教職員の労安活動の手引」「過労死・過労自殺」「メンタルヘルス職場復帰」などを特集を組み、好評でした。

 4)相談活動
 アスベスト問題だけでなく、過労死弁護団の呼びかけによる過労死・過労自殺110番など、多くの地方センター、労働組合で相談活動が展開されました。
 全国センターの相談件数は昨年はメールだけの統計ですが今年度は85件で、昨年の135件から50件減少しました。これは東京など地方センターの積極的な活動の反映という側面もあります。全国的な相談ネットワークの構築や初歩的疑問に答える相談コーナーなど、ホームページの充実を前期の方針に掲げましたが、実現できませんでした。これの実現と同時に、全国センターの相談活動の検討が必要です。

 5)理事会、事務局
 常任理事会と理事会を一本化し、理事会の執行力を高める努力をしてきました。また総会で年間計画を決め、集会などを計画的にとりくんできました。
 事務局は第7回総会活動方針、理事会で決定された諸方針の推進、具体化に奮闘してきました。今期、労安法改悪反対運動、アスベスト問題への対応などがありましたが、働くもののいのちと健康を守る全国センターへの期待も高まっています。事務局体制を強化する検討が必要です。


U.働くもののいのち、健康をめぐる情勢

 小泉内閣の大企業本位の「構造改革」は、富めるものはより富み貧しいものはより貧しくなるという階層分化、格差社会を生み出しています。その結果雇用破壊がすすめみ、派遣、パートなどの不安定雇用の労働者は3分の1におよび、働いても十分な収入が得られない労働者、特に若い世代での新しい貧困層=ワーキングプアが急速に増加しています。そのような中で、一定の収入を確保するために多重就労する労働者や、長時間・過密労働を強いられている労働者がますます増えています。所得格差がそのまま健康格差となり、働くもののいのちと健康は、過労死、過労自殺が広がり、メンタルヘルス不全がかってなく広がるなど、ますます深刻な状況になっています。
  アスベスト被害は大きな広がり見せ、危険性を知りながら使用禁止にしなかった国、石綿関連大企業の責任を問う国民の声が日増しに強まっています。アスベスト被害対策は過去、現在、未来の問題であり、腰を据えたとりくみが求められています。
  日本を「戦争する国」にするため憲法9条を改悪する動きが強まっています。同時に政府・与党、財界は、「国民は勤労の権利を有し、勤労条件に関する基準は法律で定める」とした第27条、「勤労者の団結権、団体交渉、団体行動する権利」を保障した第28条を改悪する立場で、労働契約法の導入や労働安全衛生法、労働基準法の改悪をすすめています。憲法改悪反対とあわせ労働法制の改悪、後退を許さないたたかいが重要になっています。

 1.顕在化し拡大するアスベスト被害
 石綿予防規則は7月1日から施行されましたが、6月29日、尼崎のクボタの旧神崎工場の従業員79人が、アスベストのばく露による肺がん、中皮腫で亡くなっていたことが報道されました。その後もニチアス、日本エタニットパイプなどのアスベスト関連企業が次々と亡くなった従業員数を公表しました。そして亡くなったのが従業員だけでなく、家族(2次労災)、公害として地域の人々にもおよんでいることが明らかになり、日本中に不安と怒りが広がりました。
 中皮腫は8割以上がアスベストばく露によるものと言われていますが、中皮腫で亡くなった6,060人(1995年〜2003年)のうち、労災認定はわずか287人です。中皮腫より多いとされているアスベストによる肺がんでの労災認定も同じ期間で175人に過ぎません。アスベストによる肺がん、中皮腫の労災認定が少ないのは、潜伏期間が長くばく露歴の証明がむずかしいこと、正しい知識や情報を与えられず原因がアスベストであることがわからないまま亡くなった方も多いと考えられますが、いずれにせよ労災補償を受けた被災者はわずかで、2次労災や地域で被害を被った人にはほとんど補償がないというひどい実態がますます明らかになりつつあります。
 70年から90年にかけ、多い時では30万トン以上の石綿が輸入され、今後10年間に建設解体現場から4,000万トンのアスベスト含有窯業建設廃材の排出が予想され、2000年からの40年間で中皮腫による死亡者が10万人出ると予測する研究者もいますが、危険性を知りながら使用禁止にしなかった政府やアスベスト関連大企業の責任がきびしく問われています。
これに対し政府は「アスベスト問題に関する関係閣僚による会合」を持ち、対応をすすめてきました。しかし労災病院に「アスベスト疾患センター」が設置されたのは全国で22に過ぎず多くの国民の診断・治療の要求に応えていないこと、労働基準監督署や保健所に相談に行って十分な回答がないことなど、政府の対応はきわめて不十分です。さらに建築関係のアスベスト含有廃材の処理も問題になっており、国民の不安は募るばかりです。
 政府は9月末に、「石綿による健康被害の救済に関する基本的枠組み」、いわゆる「石綿新法」の骨子を発表しました。しかし内容は国、石綿関連大企業の責任を明らかにしたうえでの立法措置ではないこと、内容的にもすべての被害者の補償をすすめるものでないこと、しかも新聞報道によると遺族への一時金は300万円などきわめて低水準であること、被害予防対策など総合的な対策が必要なのに政府はそれに応えようとしていないことなどが問題で、国民から批判の声が上がっています。
 国の責任に関しては、「政府の過去の対応についての検証(補足)」(9月29日)で、「クロシドライトに関して行政指導などで使用実態が1989年になくなっていた、ドイツ、フランスなどとくらべて遅れはとっていなかった」とし、基本的には国の責任を認めていません。しかし少なくとも1960年代には発がん性については国際的にも認められていましたし、1972年、ILO・WHOの専門家会議がアスベストの発がん性を確認しています。第3者機関による国の責任の検証が必要です。
 またアスベスト被害は、補償問題としても労働災害、2次労働災害(作業衣を洗濯した家族など)、公害という3つの側面を持ち、さらに補償問題のみならず、アスベストばく露者の健康管理、アスベスト使用物の補修・解体・廃棄等に関する予防対策を総合的にすすめなければならない課題で、私たちはそのために「石綿法」が必要としてきました。しかし政府の「新法」は被害者救済、それも労災で補償を受けられなかった被害者の救済のみを行うもので、総合的なものではありません。より多くの被害者が認定されるように認定基準の改善も必要です。さらにばく露者の健康管理や被害防止対策も含め、国、アスベスト関連企業は総合的に責任を負わなければなりません。
 「新法」は予算関連法案となり次の通常国会に出され、3月までに成立させることを政府・与党は考えていますが、国民各層と手を結び、「新法」でのアスベスト対策の幕引きを許さず、国と関連大企業の責任を明らかにした総合的な対策を求めてたたかうことが重要になっています。

 2.働くものの健康状態と医療保険の改悪など
 50人以上の企業の健康診断の有所見率は1990年23.6%でしたが2004年では47.6%と2倍になっています(50人以上の企業、厚生労働省「定期健康診断結果調べ」)。
しかも一般常雇者の75.3%が健診等を受けていますが、自営業者50.7%、1ヶ月以上1年未満の契約の雇用者は61.1%、日々または1ヶ月未満の契約の雇用者は48.2%など、自営業者や不安定雇用の労働者で健診等を受けているのは半数に過ぎません。これらの層を含めた「仕事あり」の人全体を見ても健診等を受けている人は67.6%に過ぎません(2004年国民生活基礎調査)。
 このような中、2004年度には過労死150件(申請335件)、過労自殺45件(申請121件)が労災認定されていますが、申請にいたらなかったケースも膨大にあると思われ、認定は氷山の一角です。
 職業生活で「強いストレスを感じる」労働者は1982年には50.6%でしたが、2002年には61.5%になっています(厚生労働省「労働者健康状況調査」)が、各職場、地域のメンタルヘルス不全はかってなく広がり、長期療養者のトップは多くの職場で精神疾患となっています。上場企業268社の調査では、約6割の企業において最近3年間の心の病は「増加傾向」にあり、66.8%の企業に1ヶ月以上休業している従業員がいて、もっとも心の病が多い年齢層は30代と約半数の企業が答えています(産業人メンタルヘルス白書、2004年)。職場の健康問題の最大の関心は、今メンタルヘルス不全問題となっています。自殺者も1998年に3万人をこえ、2004年には32,325人で、減るきざしは見えていません。
 中小業者の健康破壊も深刻です。全商連の集団健診の結果(2004年)では、健康な人は15.7%に過ぎず、「有所見健康」が15.7%、「要再検査」が20.8%、「要精密検査」が24.9%、「要治療」が16.9%になっています。
  しかし全日本民医連の194自治体の健診実態調査によると基本健康診査が無料で受けられるのは53自治体だけで、胸部エックス線検査が行われているのは56自治体にすぎないなど健診の有料化、検査項目の削減が各地ですすんでいます。さらに政府は高齢者の患者負担割合を1割から2割にする、介護保険にならって長期入院患者の食費や居住費を患者負担にする、風邪や腹痛などの低額な医療費は全額患者負担にする、などの医療保険の大改悪を計画しています。これに反対し中央社保協などがたたかいをすすめています。
 厚生労働省は、この間「健康日本21」にもとづき健康増進法を定め、「生活習慣病」の予防対策などをすすめてきました。しかし、国民の健康状態は必ずしも改善していません。2005年4月の「健康日本21」の中間評価の暫定総合評価では、脳卒中・虚血性心疾患の死亡率について改善が見られるものの、中年男性における肥満者の増加、運動習慣の指標としての国民の歩数の低下、自殺者の増加など休養・心の健康づくり分野ではめざましい成果が得られていない、男性の喫煙率の低下はあるが女性の喫煙率の低下はない、多量に飲酒する人の数は明らかな改善は見られない、糖尿病の一次予防についてはむしろ糖尿病は増加傾向、がんの一次予防としての生活習慣の改善の目標達成は困難など国民の「生活習慣病」予防は健康指標で見るかぎり改善していないという結果が出ています。この結果は、住民参加の計画をつくり、環境や職場、働き方を変えないかぎり、国民の健康は守ないことを示しています。

 3.労働安全衛生法などの改悪の動き
 総括の項で労働安全衛生法の改悪案が成立し省令段階のたたかいが重要になっていることにふれましたが、それ以外にも改悪が準備されています。結核予防法の改正により、定期の結核健康診断の事業者への実施の義務づけが学校、医療機関、介護施設、福祉施設に限定されたことにともない、厚生労働省「労働安全衛生法における胸部エックス線検査等のあり方検討会」では、雇い入れ時の健診および海外派遣労働者に行う健診については胸部エックス線検査を継続する一方、結核発病の可能性のある労働者に対する健診6ヶ月後の胸部エックス線検査については廃止する方向で一致しましたが、アスベスト問題が全国的な問題となる中で胸部エックス線検査廃止については結論が出ない状況です。そのほかに厚生労働省は心電図をはずすことも検討しています。糖尿病や脳卒中、心疾患などの生活習慣病を減らすことが医療費削減のために重要であり、「メタボリック症候群」(肥満があり血圧、血糖値などの数値が高め)にたいする食事や運動の指導などが重要であるとし、健康診断もその方向で見直すといっています。そうなると健診項目は血液検査や血圧測定、体重測定などになってしまい、心電図や胸部エックス線検査などの削減で多くの疾患が見逃されることになります。
 さらに、日本経団連は衛生管理者の職場巡視を「毎週1回以上」(労働安全衛生規則第11条)から、「各職場の実情に応じて自主的な運用が図れる」ように改正することを求めています。法で定める労働条件(基準)の「規制緩和」、後退を求める財界の要求は強まっています。
 その他、労働安全衛生法で改悪されたマネージメントシステムを導入している事業所の機械等設置届け出義務の免除、労災保険料のメリット制拡大なども、重大災害や健康破壊をさらに増やす可能性があります。また労安法改悪案では「派遣労働者や業務請負労働者の混在する事業所では元方事業者が連絡調整を行う」ことが盛り込まれましたが、下請け、孫請けなど不安定雇用の労働者のいのちと健康を守るとりくみが重要になっています。

 4.ホワイトカラー・エグゼンプションなど労働法制改悪の動き
 政府・与党、財界は、憲法第9条のみならず、「国民は勤労の権利を有し、勤労条件に関する基準は法律で定める」とした第27条、「勤労者の団結権、団体交渉、団体行動する権利」を保障した第28条まで改悪する立場で、労働法制の改悪をねらっています。
 労働契約法制について、9月12日、厚生労働省の研究会が最終報告をまとめました。これは労働基準法の保護から労働者を切り離し、労働条件を「労使委員会」で決めることができるようにするなど、大企業にとって都合のいい「ルール」に置き換えることをねらったもので、財界の要求を大幅に受け入れたものです。特に「ホワイトカラー・エグゼンプション」は、事務系労働者を労働時間規制からはずすもので、残業なしの野放しの長時間労働を可能にするものです。
 さらに労働基準法の深夜割増し賃金規定の削除など、政府、財界は法で定める労働条件(基準)の「規制緩和」をすすめようとしています。このような労働法制の改悪をすすめる政府、財界へのたたかいが重要になっています。


V.今後1年間の活動方針

 今期はアスベスト被害の広が、働くものの生活困難と健康破壊の進行、労働法制の改悪攻撃など、全国センターへの期待がますます高まる情勢です。力を合わせ困難を打開するとりくみが求められています。全国センターは、@情報収集と政策分析、情報発信、A対政府、国会などへの働きかけ強化、B活動家養成と全国の活動交流などに重点をおき活動を推進します。

 1.アスベスト被害者救済と予防対策の拡充を
 アスベスト被害はきわめて大きな空間的、時間的な広がりを持った問題であり、腰を据えたとりくみが求められています。また@相談活動、調査活動など被害者の掘り起こしと救済、Aアスベストの正しい知識の普及、B国やアスベスト関連大企業の責任を明らかにした被害者救済制度、予防対策拡充の実現、C裁判闘争など、多面的なとりくみが求められています。
 具体的は、@政府交渉、国会行動、署名運動、自治体などへの働きかけ、Aアスベストと健康、労災申請の手引きなどパンフの作成、B学習会の推進や正しい知識の普及(たとえば労働相談員・ソーシャルワーカーなど相談員のためのアスベスト学習会)、C調査・相談など被害者掘り起こし活動、D各地の活動交流の促進、E裁判闘争への支援などにと
りくむことが重要です。
 当面の「石綿新法」への対応を重視し、政府に総合的な対策を実施させるたたかいを強めます。「石綿新法」は予算関連法案で、政府は来年1月からの国会に提案し3月までに成立させようとしていますが、この成立で国のアスベスト対策を「幕引き」させてはなりません。全建総連から署名運動、集会などでの協力・共同の申し入れがありました。全国センターが提起した「アスベスト対策基本法の制定、すべての被害者の補償を求める請願」署名を、積極的にすすめましょう。
 全国センターは弁護士や医師などの専門家も結集した働くもののいのちと健康を守る専門団体にふさわしく、国民的なたたかいの中でその役割をはたします。

 2.メンタルヘルス対策など健康で安全な職場、地域づくり
 多くの職場でもメンタルヘルス不全が問題になっています。健康な職場づくりなどその予防、職場復帰のとりくみ等を重視します。中小企業、自営業者などで働く人々の健康を地域で守る活動を引き続き重視します。不安定雇用者や労働組合未加入者などきびしい実態にある労働者の健康、安全問題を重視します。
 健康で安全に働くための交流集会は、今年度は各ブロックセミナー、中央団体での交流集会、中央労働安全衛生学校など他の集会との関連を整理し、来年2007年に開催することを検討します。

 3.過労死・過労自殺、じん肺など労(公)災被災者救済と制度改善
 過労死、過労自殺、腰痛、肩頸腕障害、振動障害などの労(公)災認定、損害賠償訴訟など被災者救済のとりくみをすすめます。事例検討会、公務災害認定闘争交流会などを継続的に行うとともに、新たに「労災等係争事案データベース」のとりくみを開始し、全国的な動向の分析やとりくみの交流に生かします。過労死、過労自殺など労(公)災認定基準を改めさせるたたかいをすすめます。
 前期とりくんだ労働保険審査会の審査遅滞問題を重視してとりくみます。被災者の立場を考慮した公務災害補償の迅速かつ公正な実施など、地方公務員災害補償基金の民主化も重要な課題です。
 じん肺は今なおもっとも認定数の多い疾患です。患者の掘り起こし、管理手帳の交付と健康診断、労災認定などの諸活動をすすめます。さらにじん肺の根絶のため、北海道、西日本、トンネルじん肺訴訟の勝利をめざしたたかいをすすめます。

 4.労働安全衛生法など労働法制改悪反対のたたかい
 労働安全衛生法の改悪案の実施については、「月45時間の残業で医師の助言・指導。80時間で面接指導」など私たちの要求にそい省令が出されるように厚生労働省への働きかけを強めます。また健診制度の改悪など、働くもののいのち、健康を守る制度を後退させるあらゆる改悪に反対して運動をすすめます。
 また労安法改悪案の参議院で可決した時の付帯決議に盛り込まれた「ILO155号条約の早期批准」を求めてたたかいをすすめます。
 長時間・過密労働を野放しにし、過労死、過労自殺をさらに増やすホワイトカラー・エグゼンプションの導入など、労働法制の改悪に反対し、労働法制中央連絡会に加入します。

 5.労働安全衛生の活動家養成
 職場、地域で労働安全衛生の活動家が求められています。地方センターなど各加盟団体で活動家養成を推進する一方、全国センターとしてメンタルヘルス対策なども重視した第2回中央労働安全衛生学校を6月9日(金)〜11日(日)の2泊3日で開催します。同時に労働安全衛生の教科書づくりをすすめます。

 6.ILO総会対策など国際活動
 来年のILO総会では「労働安全衛生のための促進的枠組み」の第2次討議が行われます。全労連と協力し、ワーキング・グループを継続し対応をすすめます。
 韓国・源進職業病管理財団との定期交流、アジア段階での労働安全衛生関係の国際会議の検討を引き続き行います。

 7.組織強化
 1)地方センターづくりとブロックセミナーの成功
  地方センターがない都道府県でのセンター結成、地方センターの活動の交流を促進し、ブロックセミナーの成功などを議題とするブロックごとの会議の開催を検討します。
 2)研究者交流会の検討
 総会時、あるいは社会医学会などの開催時に、呼びかけ人を組織し働くもののいのちと健康を守る全国センターの個人会員の研究者を対象に交流会を開催することを検討します。
 3)委員会、検討会、研究会、部会等の設置
 活動を継続している委員会などは継続するとともに、研究会、検討会、委員会などの位置づけを明らかにし、必要性に応じて再編していきます。
 4)財政基盤の強化と会員拡大、機関誌紙拡大
全国センターの財政は、大幅に改善されてきました。しかし3人の事務局専従者にふさわしい人件費の計上はできていないなど、財政基盤が確立されているとは言えません。アスベスト問題への対応など、全国センターへの期待も大きいものがありますが、全国センターの体制強化、機関誌紙や会員拡大など財政基盤の強化、組織整備などについて、委員会を設置し検討をすすめます。
 今期も経費を節減し、集会などの諸行事は独立採算制とすることを堅持します。 財政基盤の強化には、会員拡大、機関誌紙の拡大が重要です。3,000部の「季刊誌」をめざします(現在1,644部)。
 5)理事会、事務局の強化
 くわしくは役員選出案に譲りますが、役員体制は基本的に現体制を維持し、理事会開催回数もほぼ同様とし、理事会の執行力を高めるよう奮闘します。
 第8回総会活動方針を推進するため、事務局体制の強化をはかります。


終わりに

 アスベスト被害は、私たちが経験したことがない広がりを持つ労働災害であり公害です。また失業、不安定雇用、低賃金、長時間・過密労働の広がりの中で、働くものの健康破壊が進行していますが、私たちの活動はますます重要です。働くもののいのちと健康を守るため、さらに積極的な活動を展開しましょう。

(以 上)


 特別決議

すべての被害者が労災なみの補償で救済される石綿新法を
−国、関連大企業の責任で総合的なアスベスト被害対策を確立せよ−

今、小泉内閣はすきまなくアスベスト被害者を救済するとして、労災保険で補償されない被害者救済のため、石綿新法の制定を急いでいます。しかし新聞報道によると被害者遺族に対し300万円、患者の療養手当は10万円という低水準の給付で、対象者も中皮腫、肺がんの患者に限るという不当なものです。人のいのちの重みや生活し続けることの意味を理解しない小泉内閣に満身の怒りを表明するとともに、私たちはすべての被害者や遺族が、少なくても継続して生活を維持できるように、労災保険や公害健康被害補償法なみの補償が受けられることを要求します。補償される疾病も中皮腫、肺がんだけでなく石綿肺なども対象とするなど、アスベストが原因と考えられる疾病の患者・遺族を、もれなく救済する健康被害補償制度の確立を要求します。また職業起因性のアスベスト疾患については労災保険の認定基準などを改善し、すべての被害者が補償されるよう要求します。
 さらに、アスベストに曝された地域住民の健診制度など健康管理制度を確立することを要求します。政府は尼崎や鳥栖などで行われている住民健診を自治体まかせにせず、十分な財政上の措置をとるべきです。また労働者むけの石綿健康管理手帳の制度も多くの労働者が活用でき、十分な健診が受けられる制度に改善すべきです。患者の立場にたち、アスベスト関連疾患を診断・治療できる医療機関を増やすことも大事な課題です。
 そして、アスベストの製造、使用をただちに禁止すること、国民に分かりやすくアスベストを使用した企業やアスベスト製品を公表すること、学校など公共建築物のアスベストの除去、建築物の解体時の飛散防止対策など、今後の被害の拡大を予防する対策の拡充を要求します。とくに廃材の野積みをさせないような処理施設の拡充なども緊急の課題です。
小泉内閣は来月中にも法案を作成し、通常国会の冒頭で石綿新法を成立させるとしています。私たちは国およびアスベスト関連大企業の責任を明らかにしないまま、石綿新法に見られるような不十分な救済で、アスベスト対策の幕引きをはかろうとする小泉内閣を許してはなりません。私たちは上に述べたような総合的な対策をとるように政府に要求し、調査・相談活動や施設点検運動などのとりくみを職場、地域ですすめ、当面、1月からの通常国会にむけた署名運動を重視してとりくみます。
アスベストによる健康被害者の救済をすすめ、アスベスト被害を根絶するため、国民各層と連帯し、さらに前進しましょう。

2005年12月9日
働くもののいのちと健康を守る全国センター第8回総会