私たちは、今日、働くもののいのちと健康を守る取り組みを大きく発展させることを願って、「働くもののいのちと健康を守る全国センター」を設立しました。
 いま、働くものの人権を無視した厳しい『合理化』や財界本位の労働基準法の改悪、医療や年金制度の切り崩しがすすめられ、私たち自身と家族の健康な生活は、現実においても将来においても見通しのない、不安に満ちたものになっています。
 毎日の労働や仕事は大きな緊張と負担に満ち、それによるストレス状態の訴えは年毎に増え続けています。こうした事態は、私たちから心身の健康を失わせ、人間としてのゆとりと尊厳を失わせ、家族や子供たちから心の豊かさや希望を失わせるような、危機的な状況であると言わざるを得ません。それは、労働者にとっても、農民にとっても、そして小規模経営者や自営業者など、多くの勤労国民にとって共通のものであり、いまこの窮状を打開する大きな取り組みが必要になっています。
 振り返ってみると、これまで、私たちは、長い間、働くものの健康破壊や労働災害・職業病、過労死などを発生させた企業と政府の責任を問い、その補償の充実と予防の徹底のために、全国各地で、大きな努力を続けてきました。例を挙げれば、炭鉱・建設現場・化学工場等の重大災害、じん肺・頸肩腕障害・腰痛・振動障害・産業中毒をはじめとした、あらゆる労働災害・職業病の補償と根絶の取り組みは、健康に働き生きる権利を、企業と産業に守らせるものとして、国民の大きな支援を得て発展してきました。
 過労死した労働者の家族の各地での労(公)災認定をもとめる取り組みは、出発においては、それぞれに小さな、困難なものでしたが、今日の企業社会の間違った在り方を糾し、人間尊重の企業活動と労働行政を求めるものとして世論の大きな支持を得、そして企業と労働行政の在り方を批判する裁判判決を導きだし、労働者の健康管理を是正する労働安全衛生法の改正を生みだす重要なきっかけをつくりました。
 安全を無視した高度経済成長のもとで起こった一九六三年の三井三池炭坑での大爆発事故への大きな社会的な抗議は、労働者が参加する職場の安全衛生委員会を法定させました。それをより所にした働くものの自主的な安全衛生活動は、職場に憲法を生かし、働くものの人権を確立する取り組みを一層強め、世界の労働者が育てたILOの国際労働基準を職場に導き入れる大切な役割を果たしています。
 こうした取り組みの中で、労働者・労働組合の組織の違いを越えた大きな共感と共同が生まれています。育児・家事・介護などの困難な家庭状況や不平等などの社会の状況のもとで働く女性の平等と労働保護をめぐる取り組みや、労働法制改悪反対闘争は、その典型です。
 日本の産業を底辺で支え、国民の生活を地域で支えてきた小規模零細の企業や自営業に働くものとその家族の生活と健康をまもる取り組みは、大企業中心の政策の誤りを厳しく問い、日本の産業の在り方を考え直すものとして広く国民の共感と連帯を生んでいます。
 外国依存の農業政策による窮状を脱するために立ち上がり、自らの生活と健康のみならず、国民の健全な食生活を守る農民の取り組みは、働くもののいのちと健康を守る取り組みの新しい国民的な課題を示しています。
 これらの例にとどまらず、多くの職場や生活の場で粘り強く、そして止むことなく続けられている多くの取り組みは、いま、企業社会日本の在り方を糾して企業と政府の責任を問い、職場に、地域に、広く社会に、働くものの人権の確立をうながし、企業と政府の活動や政策に、国民本位への転換を求める取り組みへと発展しつつあるということができます。
 広く目を転ずれば、いま、世界中で、働く人々が、二〇世紀の歩みの中で育ててきた、働くものの健康な労働と生活を保障する権利をまもり発展させるための闘いに立ち上がっています。私たちは、こうした活動を通して、世界の全ての国々の、働く人々と連帯しつつあります。
 今、私たちの目前には、過労死をはじめとするすべての労災職業病の認定と補償闘争の早期解決の課題があります。また労基法の改悪に伴なう深夜勤務、裁量労働時間制度の拡大導入などによる労働者と経済不況による自営業者・農民の生活と健康の破壊を防ぐ闘いがあります。こうした取り組みを先頭に、働くもののいのちと健康・権利をまもり、人間が尊重され、安心して働ける職場、社会の建設を、過労死も労災職業病もない二一世紀を目指し、多くの人々と、多くの団体・地方組織と、そして多くの専門家と共に「働くもののいのちと健康を守る全国センター」は積極的に活動することを、ここに宣言します。

1998年12月15日 「働くもののいのちと健康を守る全国センター」結成総会